4話:狂乱!ザクロ、キレた!?
ロボット宇宙人に、おもいっきりビンタされた。
……思い返せば、中学時代からずっと罵倒や陰口はちょくちょく叩かれてきたが、物理的な暴力で叩かれたことは無かった。
その驚きによって麻痺していた頬の痛みが、熱をともない、遅れてやってきた。
私の歯が震えている。
「ザクロ!君が動かねば、君は死ぬ!我々も死ぬ!それだけじゃない、このタカマガモリが破壊されれば地球の危機に転じかねないのだ!自分勝手な悲しみに浸ってないで、動け!心を燃やすんだ!!」
なぜ、私はいつもいつもこんな理不尽に振り回されてしまうのか。
今回だってそうだ、事前にロボットのエネルギーについて知ってたら断ってた!
大事な部分を伝えてない宇宙人サイドにも問題あるはずなのに私ばかりに責を負わされて……!
こんな、こんなクソみたいな、私は何も、悪くなんて……!
不意に、今までに自分を虐げた奴らの顔を思い出す。
中学時代、女子グループのトップ層たち。
高校時代、私が特定科目の点数だけ低いことを恨んできたカス教師。
社会人時代、なにかにつけて私の事を上司につげ口し陰口を叩いてきた古参女。
それらにミタマが重なるイメージをかいま見た。
私の冷えた身体にドクドクと流れだした熱い熱い熱い血が、まるでマグマのようだ。
ヘソの奥がうずき、ドロドロと煮えたぎってきた。
瞳孔は開き、震えていた歯はぎしりと噛み合わさり、食い縛っている。
私は顔の筋肉全てを使って怒りを表し、ミタマを睨む。
「俺が憎いなら憎め!だが今は!その怒りの力を、人を救う力に換えてくれ!!」
「ぐ、ぐぐ、ぐぐぐ……!!」
黒い感情がグツグツと煮えたぎる。
だがしかし、長い間虐げられてきた経験が、私の衝動を抑えろと命令してくる。
平和に生きよ迷惑をかけるなと、社会の目を気にして自分を押し込んできた脳が、私の加害衝動を否定する。
「ぐううう~~うう~……!!」
「ザクちゃん悶えてるの!?なんで!?」
感情と理性の不一致に苦悶し、うめく私。
そこに、ミタマの奴が声をかけてくる。
「ここに、君を見張るような存在はいない。評価する者も」
「ッ……!!」
「心のままに暴れてくれ、できれば怪獣を倒してからな」
心を読まれたかのような、人の心に勝手に踏み込まれたかのような不快さに、ついに我慢ができなくなった。
……ああそうですか!!そんなに見たけりゃ見せてやりましょうかねえ!!
醜い感情を塊をさあああ!!!
んんうううううぬおおあああああ!!!!
機械に突っ込んでて動かない手足の代わりに、頭でドガァッと思いっきり台パンをキメる。
「あわわわ!!」
「慌てるなイナバくん。好きにさせてやってくれ」
そしてミタマを睨み、私は叫んだ。
「怪獣の次はお前だ!!首洗ってろ!!!」
機械のボディなので当然だが、ミタマは表情を変えずにこちらを見ている。
イナバはその横で「ひえぇ……」とか言いながら青い顔をしている。
よくそんなんで怪獣退治だなんて言えたもんだ!
私は次にモニターを睨み付ける。
怪獣が腕を振り上げ、タカマガモリを叩きつぶそうとしていた。
私は怪獣の醜いツラを見て、さらに怒りが沸いてきている。
そもそもの話が、だ!
怪獣が日本に落ちてこなければ、妹の心配することも宇宙人にはたかれることも巨大ロボットも命の危険も何も無かったんだ!
迷惑クソゴミカス有害汚物怪獣がよお!!
全部お前のせいなんだ!!!!!
「んんんブッッッッ殺してやるうぁぁああ!!」
その叫びにタカマガモリが応えたのか、モニター周辺の計器たちが暴れだす。
「テラス因子供給量、急上昇!!す、すごい数値!!!」
「いける!いけるぞ!!」
「やっちゃえー!ザクちゃん!」
「命令すんなッ!!引きちぎるぞッッッ!!!」
「ゴメンナサイ」
タカマガモリが素早く片脚だけ立ち上がり、両拳を同時に突き出して黒点を放つ、放たせる!
怪獣はグッと黒点をにらみ、スピードを若干落とす。
飛んで行った黒点は怪獣の足元、距離にして60メートルほどの地点で地面に突き刺さり、爆発した!
砕けた道路は粉塵を立てて地面ごとへこみ、タカマガモリと怪獣の間の道に凹凸を作っている!
「はずれた!」
違う!狙い通りだ!
怪獣は大きく跳ね飛び、腕を大きく振り上げた。
この崩れた地面ではうまく走れないと思ってそうしたのだろう。
さっきジャンプ攻撃が成功した体験があればなおさらだ。
成功した事例はつい繰り返したくなるもの。
だが。
「そういう浅はかさが通用する相手だと思ったか怪獣!!!!ン舐めるなあああああああ!!!」
タカマガモリの黒点連射は止めない!
拳をがむしゃらに突きまくってドバドバと放ちまくる!!
放たれた黒点は怪獣の振り上げた腕にズバドバと当たり爆発する。
空を飛ぶパーツも無いのに考えなしで跳べば、当然!避けるすべもなく的になるだけだ!
腕を封じられた怪獣は、落下しながら足を振り上げた。
殴れないなら踏みつけだ、ってかぁ~??
そんな思いつきの攻撃、当たってやれるかぁ!!
タカマガモリを軽くジャンプさせ、こちらから近づく!
ギョッとした表情を見せる怪獣!
あの不気味で恐ろしく思えた怪獣が、こちらの殺意ある行動に驚く瞬間を確かに見て、私はギラリと笑みを浮かべた!
他者に恐怖を与える快感が脳を走り、今まで出したことの無いような汁が脳から出ている!!!!
今なら、私の方がもっと『怪獣』だぞ!!!!!!」
タカマガモリの両腕を大きく横へ拡げ、振りかざし、両拳で怪獣の頭を横からガツンと挟み込む!!
怪獣の皮膚がメキメキと割れ、その表情が大きく歪んだ!
そして、ズドォン!!と轟音を立ててタカマガモリが着地した。
怪獣はタカマガモリに頭部を挟まれつつ持ち上げられているため、脚は宙ぶらりんになり、ジタバタともがいている。
そこで私は閃く!さらなる殺意のレシピ!!
「ミタマ!輪っか出せ!!」
「お、おう!焔輪展開!」
挟み込んだ手の甲から刃の輪が跳ねるように突き出て、怪獣の頭部にゾブリと切り入る!!
暴れる怪獣の自重で焔輪はさらに怪獣の頭部のその奥へ!
「クゥロロロロロオオーーーーン!!!」
痛いか怪獣!!痛いか!!そうか!!
だけどここからだ!!!!
「黒点も撃てるだけ撃つッ!!!!」
「おうっ!発射準備だッ!!」
グオオオオオーーーーンッ!!!!
タカマガモリの目の光が強まり、全身が駆動音を雄叫びのように響かせた!
周囲の景色がタカマガモリの発する熱でユラユラと揺れ、足元の道路はブルブルと振動している。
怪獣は生命の危機に直面してか、その顔をくしゃくしゃに歪めてわめき、暴れる。
その様子が私の心をまた黒くしていった。
他者を破壊し、攻撃し、恐怖と混乱をもたらした怪獣が、自分の危機と知るや身勝手に怯えた表情をとる!!!
自分勝手な奴なんて、他者をいとわない奴なんて、許せない、許せない、許せんッ!!!!
「ううううあああああああああああああ!!!!」
私の叫びに合わせ、タカマガモリの武器がフル稼働する!
黒点は、黒い煙を伴う爆発をとめどなく放つ!
焔輪の刃は燃えながら回転数を上げて回り、冷徹に肉を焼き裂く!
それはまるで、私のドス黒い感情そのものを垂れ流しているかのようにも感じられた。
「オオオオーーーー!!」
怪獣が断末魔をあげ、頭部から淡い光が放たれる!
そして……その頭部はついに切断され、勝敗は決した。




