2話:スーパーロボット!?「タカマガモリ」搭乗!
うおっ、でっけえ胸……ふっとい足……。
まさに、ロボットアニメの人型ロボットってカンジだ。
地面に向かって胸から飛び降りるかのように両手両足を広げたポーズで浮いている。
見た目はミタマに酷似して、白を基調とした配色の、ゴツゴツのボディ。
そこに鎧や兜などを付け足して更に派手な見た目になっている。
額には太陽のような装飾が付き、肩と前腕と下腿は胴体部の倍くらい太く、ガッシリした印象を持たせる。
全長は怪獣と変わらないくらい、つまり40メートルほどだろうか。
その巨大な白い体は、宇宙の黒さとの対比で際立ち、輝いて見えた。
私がその姿を呆けて見ていると、私にくっついて飛んでいるミタマとイナバがロボットの紹介をする。
「これが怪獣と戦う為に作られた超兵器ロボット、『タカマガモリ』だよ!」
「君には、この機体を操縦してもらいたいのだ。一緒に!!」
ロボットの操縦!?
そんなの素人がいきなり上手くやれるモンなんだろうか。
いやしかし、やれるからこそ素人の私を誘ったのだろうし、とりあえず文句は言わないでおこう。
光を纏った私達は、ロボットの頭部、さきほど述べた太陽のような装飾の中にスルッと入っていった。
一瞬、何も見えなくなるほどの光に包まれ、光の刺激が落ち着くと、重力が身体に急にのしかかってきた。ぐえ、なんか気持ち悪い、内臓が重い。
パパッと周囲を眺めると、おそらくロボットのコクピットだと推察できる。
9畳ほどのやや狭い金属質な部屋に、計器類とそれを操作するパネルとおぼしき機械が並んでる。
座り心地の良さそうな椅子と操作パネル、そのすぐ後ろに子供用みたいな小ささの椅子とこれまた操作パネルが1組ずつ。
小さい方の椅子にミタマが座り、パネルの下から何かを取り出して、私に投げ渡す。
「押せ!」
ミタマが私に押し付けた『何か』は、スイッチの付いた謎の機械。
迷うことなく押すと、私の身体は虹色になり、着ていたスウェット(上下セット1500円)と下着(上下2300円)が弾けて、機械からも虹色の光が伸び、身体がほんのりと締め付けられる感覚が襲ってくる。
私の身体の変色が終わると、ボディラインが出まくった派手な色のスーツに身を包まされていた。
まるで魔法少女の変身シーン……。
「えぇ……」
思わず困惑の声が出たけど、それが未知の科学技術に対する声なのか、スーツのありえんデザインに対して出た声なのかは、自分でも分からなかった。
「『ASスーツ』だよ!これ着てないと、ロボットが動く衝撃で人間ハンバーグができちゃうから、ちゃんと着てね!」
イナバが可愛い顔して恐ろしいことを口走っている。
宇宙人の感覚……ッ!
ビーーーッ!!
突然、低い警報音が響く。
私が空いてる方の椅子に座ると、ミタマが叫んだ。
「タカマガモリ、起動ッッッ!」
テンション高っ。
「テラスシステム、正常起動!各部動作確認ッ!」
イナバも叫んでいる。
グオオオオオンッッ!!
と、獣の咆哮のような音が響く。
私がその音に慌てると、
「これはタカマガモリの関節部などにエネルギーが入って動く音だ、つまり起動音というわけだな!」
とミタマの説明。
防音どうなってるのかね。
そのあと、ホワァン……と何とも言えないような音がして、コクピット前面の壁が透明に……いや、モニターに変わったのか。
画面の中央下あたりに、タカマガモリの背面が見える。
まるでTPSゲームの画面だ。
……ん?
「これって、どこにカメラがあるの?何処からの視点なの?」
「サードアイシステムっていう技術があって……まあその話は後!それよりぃ~」
イナバに質問を流された。
まあ、小難しい話を聞いてる暇は無いしなあ。
と、私が座った椅子の手元足元に、手足を入れるのにちょうど良さげな、クッション付きの穴が開く。
なんかアレに似てる。血圧計の腕突っ込む部分に。
「この穴に手を入れれば、そこから脳波と手の動きを読み取って、タカマガモリはだいたいキミの意志の通りに動く!さあズボッと!」
大体?今大体って言った?
ミタマに促されるまま、手足を穴にズボッと入れる。
穴の中はスカスカだけど、空気が生暖かい。
なんかヤダ。
ミタマがガッツポーズをし、イナバが空中をピョンコピョンコと跳ね回る。
「準備できたな、ヨシ!」
「降下開始!目標は地球、東京!」
2人……2人?はずっと私の気分とチグハグで、正直ついていけてない。
……まあ、この戦いが終わるまでの辛抱だ。
私は溜息を飲み込んで背筋を伸ばす。
ググーンと何かの機械が動く音が聞こえて、身体が外に引っ張られる感覚を受ける。
モニターの中のタカマガモリがグルリと回転し、頭のてっぺんが地球へ向けられる。
そして……ガグンと機内が縦に揺れ、タカマガモリの背中が激しく光り、地球が徐々に大きくなっていく。
「もしかして、このまま落ちるの?」
「大丈夫!姿勢制御はボクの役目だから、ザクちゃんは着地した後の事を考えてて!」
「ザクちゃん……?」
「ザクロだからザクちゃん」
「……」
どうせ今だけの仲だ、好きに呼べばいい。
そう思ってまた、溜息を飲み込んだ。
炎を纏いながら高速で地球へ降下するタカマガモリ。
地球がどんどんとズームして、宇宙空間が視界から外れた時、ミタマが声をかけてきた。
「この戦いにおいて最も大事なのは情熱、パッションだ。操作は最悪、俺が代わってもいいから、情熱だけは絶やさないようにしてくれ」
私は苦い顔をした。
情熱ぅ?今の私にとって最も無縁な言葉を真剣そうに話すなコイツは。
それに根性論は嫌いだ。
努めてた会社の上司もガチガチの根性論者だったから。
……とはいえ、私自身が怪獣退治をやると言ってしまった以上は、悪態を呑み込んでやるしかない。
グッとまぶたに力を入れ、バッと目を開いて、私の中のわずかな気合を絞り出す。
「大丈夫、ザクちゃんならできるよ!」
イナバの吹けば飛びそうなくらい薄っぺら~い応援に、私は口を『へ』の字にしながら頭を縦に振って返事する。
タカマガモリがグルリと回って上下反転し、背中のジェットのような機械が青い光を放つと降下の勢いが急激に落ち、機体は東京の大地にゆっくりと着地した。
着地の衝撃で建物が吹っ飛んだりはしていない。
おまけにモニターの画面がすごい回転をしてるのに、全然乗り物酔いしない。
すごい技術だ、宇宙人。
タカマガモリが……巨大ロボットが東京に出現すると、サイレンの音が1オクターブ上がって響いた、気がする。
私は味方だ!と言いたいけど伝わらないだろうなあ。
「これ以上の混乱は抑えたい所だが、それには言葉より先に怪獣駆除が良い!」
ミタマが私の心を読んだかのように声を出す。
タカマガモリが、着地と同時に伏せていた顔をグッと上げると、モニターの視点も上がり、怪獣がビルの向こうに見える。
怪獣もさすがにこの巨体の出現には気づていたようだ。
ニュース映像でなく、直に(と言ってもロボット越しではあるけど)近くで見ると怪獣の禍々しさがよくわかる。
身体全体を顔まで覆う濃い緑色のウロコは、深い溝の凹凸を持ちながらものっぺりとした光沢をしている。
腕は筋肉の盛り上がりをしっかりと確認でき、指もまた筋肉質で太い。
顔は逆にペタッと盛り上がっておらず、鼻なんか穴しか確認できない。
首も短い。
ゴリラとワニを神がふざけて混ぜ合わせたような、地球上にはまず存在しなさそうな不気味な生物。
見ているだけで若干正気を失いそうだ。
その怪獣が、建築物を手当り次第に破壊している。
鉄筋コンクリートでできた建築物が、破壊された部分とそうでない部分がはっきり分かるほどに抉られている。
抉られた残骸はどこかと思ったが、怪獣が口に投げ入れて飲み込んでいた。
喰ってるのか、コンクリートを、金属を!
もしこの怪獣が、誰かが地球の文明を破壊する目的で作ったものだとしたら、なんて効率的なバケモンなのだろうか。
そうやって拡がった破壊の痕跡。
それを見てミタマが語る。
「怪獣はこうやって破壊し、食い、環境を荒らし、崩し、そののちに自分たちが住みやすい環境へ変えていく」
げ!文明どころか環境ごと!?
「今はまだ、怪獣の害がタカマガモリの視界内に収まっているが、放っておけば拡がる一方だろう」
抉られ、煙をあげるビル群。
地面に溜まるコンクリートの粉塵。
空に響く救急のサイレン。
私は周囲の光景を眺め唾を飲んだ。
「イナバくん、軍隊に連絡を。せめて我々の戦闘が終わるまでは攻撃しないように言ってくれ」
「オッケー」
軍隊……自衛隊のことかな。
「さあ、やるぞ」
こちらを睨んだ怪獣が両拳で地面を交互に突き、道路にヒビを入れながら身体を縦に揺らしている。
あきらかな威嚇だ。
人間に向かってレッサーパンダが威嚇するならビビりもしなかったろうけど、ここまでクソデカメチャキモ生物に威嚇され、敵意を向けられるとマジで怖い。
かと言って怖気づくには、私はあまりに遅すぎる。
耐えるしかない。
今までだってそうしてきた、それだけはきっとできるはずなんだ。
そこへミタマがビシビシと声を投げかける。
「ザクロ!キミは大まかな動きを操作してくれればいい!俺は火器制御 ……攻撃の細かい微調整と、このチームの指揮そして意思決定をする!」
「僕イナバは姿勢制御をメインにプログラム制御やオペレーティングを担当するよ!」
「今更だけどいいの!?ド素人に操作まかせちゃってさ!」
「今なら問題ない!情熱さえあればいい!」
また情熱ゥ!?
「さあやるぞ!ザクロ!」
チイっ、ええいなんかあったら責任は宇宙人に押し付ける!!
「いけっ!」
私の声、意志……脳波?に反応して、タカマガモリが大きく歩く。
それに呼応して、怪獣はゴォロロロロと鳴き叫ぶ。
闘いが始まる……!
「待てっ!ザクロ!止まれ!」
えっ!?




