13話:ついに出た!!必殺『銀河電離拳』!!
さあ!ヘリがアカバチをひきつけている内に、誘導弾の発射準備だ!
脚をふんばり、腕をクロス!
誘導弾にエネルギーが注入されていくのが、機体内に響く音でわかる。
「イナバくん!準備完了だ!」
「オッケイ!!」
撮影ヘリが180度反転し、すみやかに離れていく。
と同時に、自律なんとか誘導弾が発射された!
今度は8発、MAXだ!!
「いっけぇーーー!!」
誘導弾の向かう先は、女王!
ただただ真っ直ぐに速く玉が飛ぶ!
玉を包む光は以前より強い。
テラス因子の増加が影響してる?
威力に期待が持てそうだ!!
それを見た兵隊アカバチ。
全員が、全速力で女王の元へと向かう。
女王の盾となるために。
ミタマがうなづいた。
「たしかに、こちらへの攻撃を中断して防御に行ったな」
「攻撃の時は女王が命令してからだったのに、女王をかばう時はそうじゃなかったよね」
「そう。つまり『女王の防衛は、女王自身の命令よりも優先事項』ってのが奴らの思考パターンだって思った」
兵隊アカバチの全速力。
誘導弾を追い越し、女王を囲うように集まった。
「なら、こうするとどうなるか……!」
なおも女王に向かう、自律誘導弾。
しかし。
「ここだっ!」
イナバくんが叫んだ。
誘導弾は軌道を変える。
女王を中心に、グルグルと衛生のように回り始めたのだ。
すると兵隊アカバチは、どうなるか?
自分らが離れれば、女王が危険だ、と判断する。
結果──動くに動けなくなってしまった!!
女王が、なにやらモゾモゾと動いて必死になにかをしている。
だが、兵隊は一向に動く様子は無い。
それを見てミタマはフウッと、安堵のような、ため息のような音を吐いた。
「タカマガモリへの対抗策として、飛行能力と群体化に注力した結果か」
「え?」
「その代償として、女王アカバチはともかく、兵隊は知能が乏しくなってしまった。故に、非常に単純な思考になったわけだ」
「『女王を守れ!あと、女王の命令に従え』ってカンジかな」
「おそらくな……!知恵の代償は高くつくものだ!」
ミタマがフンッと鼻を鳴らすように息を吐いた。
「さて、ザクロ!ここからどうする!?」
「決まってるでしょお!!」
タカマガモリが、ドガンドガンと道路を踏み鳴らしながら全力で走る、走る!
向かう先は、もちろん女王!
そして腕を振りかぶって……!
「ぶっ殺す!!!」
黒点を、女王に向かって連打連打連打ァ!!!
放たれた黒点たちは黒い光をまとってビル群を、空を駆ける!
女王と兵隊は避けようとする。
だが、女王に寄り添いながらでは、完全に避けきれるものではない。
黒点の何発かがドガドガと当たり、黒煙と炎が空に広がっていく。
女王を守る本能のために、満足な動きができない兵隊アカバチ。
相手を囲いながらジワジワと攻撃するタカマガモリ。
先程までとは正反対の状況。
自律誘導弾が、単なる誘導じゃないからこそ。
イナバくんの操作によって動くからこそできた作戦だ。
このチャンスを逃す手はない!
女王が状況を打開しようとする前に、トドメを!
そう思ってタカマガモリを走らせている。
「アカバチは機動力がある。できれば一撃でぶち殺したいっ!」
アカバチの塊までは、あと300メートルほどだろうか。
「炎輪(で、一撃で殺せると思う?」
タカマガモリの手の甲から飛び出るリング状の刃。
格闘用の武器。
これだけで女王アカバチを倒せるかに関しては不安があった。
すると、ミタマが背後から、ポンと私の肩を叩く
「ミタマ?」
「不安がっていては勝てんぞ!気合い入れろ!」
「なっ、えっ、偉そうに!」
説教されたくて相談したわけじゃない!!
私が怒りの矛先をミタマに変えたのを見て、イナバくんはまたアワアワしている。
「一撃で倒す手段ならある!ザクロ、キミの根性と気合次第になるがな」
そう言って、ミタマはドヤ顔する。
いや、表情は見えないけど、絶対してる。
「!ミタマ、アレを使うつもりだね!?」
イナバくんがニヤリとした。
「そうとも!アレだ!」
「アレって?」
「説明はあとだ!気合いを──っ!!」
急に、女王が、アカバチの塊がこちらに向かって全速力で突っ込んだきた!
女王は、このままでは『詰み』だと考えたのだろう。
であれば、相打ちになってでもタカマガモリを沈めて、後続の怪獣に託す!
そういう思考にたどり着いたのだろう。
証拠があるわけじゃないが、なんとなく、そう確信できる。
塊から覗く女王の目から、自暴自棄的な殺気を感じたから。
兵隊が囲い方を変え、1本の鋭い刃のように突進してくる!
ジャジャジャジャ!!!と、雄叫びのような鳴き声を響かせて!!
誘導弾を当てるも、捨て身の勢いは止まらない!!
女王だけじゃなく、兵隊までまとめて倒せる攻撃があるのか!?
私も忘れかけていたけど、機体はボロボロなんだぞ……!
女王を仕留めても、兵隊が突撃すればタダじゃ済まないぞ!?
ええい、ままよ!
タカマガモリの足を止めず、走り続ける!
「この出力ならいけるか!?ザクロ!!叫べ!」
ミタマが命令を出してきた。
「叫ぶ!?何を!?」
「音声認識だ!『ソーラーウインド・セタップ』!」
なんだそりゃ!
いや、考えている時間なんてない!
「ソーラーウインド・セターップ!!」
私の掛け声に合わせて、タカマガモリの関節部のカバーが外れる。
手首、足首、膝裏、肘裏、首……。
機械が露出し、そこから炎が噴き出した!
「うわわわわ!」
「大丈夫だよ!ただの排熱!!それに、タカマガモリは熱に強いんだ!」
「そうなの!?でもなんでこんな事……うわっ!」
タカマガモリの右手の関節が外れて、手が大きくなる!
そして、バチバチと音を立てて発光した!
その光は、青と赤紫が混ざりあった色。
細いトゲのようなものを持っている。
まるで電気エネルギーそのもの。
手を覆う光は、手の形を保ちながらどんどん大きくなる。
タカマガモリの全長の半分ほどにまで膨れあがった。
その巨大で強烈な光は、周囲のビル群を影だけにしてしまうほどだ。
よくわかんないけど、これが凄い武装だってことは分かる!
「出力安定!これならいけるよー!」
「よっし!ぶん殴れえええぇ!!」
「っつあああああああーーーーーーーーッ!!!」
右手をギュッと握ると、巨大な光の手も堅く握られる。
上半身を右へ大きくひねる。
左足を思い切り踏み込み、跳んだ!!
鋭く飛び向かってくるアカバチの塊に、光る拳を突きかえす!!!
「これがタカマガモリの最大攻撃!!銀河電離拳だあああああ!!!!」
アカバチ群と、銀河電離拳がぶつかる!!
──いや、ぶつかってはいない!?
アカバチ群が、光に呑み込まれると言った方が正しいだろう。
ジジッ!という短い断末魔を最期に、消え失せていく。
それを見た女王は、必死にストップをかけようとするも、間に合わない。
女王も宇宙電離拳に包まれていく。
全身が黒く焦げるも、兵隊アカバチよりも耐えてはいる。
銀河電離拳の光はタカマガモリの手を離れ、球状になって空中にとどまっている。
球状の光はグゥングゥンと圧縮され、女王の身体もグシャグシャに潰れていった。
そして、タカマガモリのジャンプが勢いを失うと同時に──
ズドオオオオオオオオオオオオン!!!
光は一気に弾けて、轟音と共に炎をあげて爆発した。
その衝撃に、周囲のビルの窓や小さな残骸はことごとく割れ、木々は葉を散らし枝は折れる。
モニター越しじゃなかったら、私の耳と目は潰れていただろう。
女王は肉片も残らず消え失せた。
これがタカマガモリの必殺技……!
勝った。
闘いが終わり、一帯は静けさを取り戻した。
私の心臓がバクバクしているのに、今気がついた。
「ゔっ……」
急に身体が痛み、重くなる。
気分も最悪だ。
世界がグルグル回りだしている。
イナバくんが空中を駆け寄ってきた。
「ザクちゃん!だいじょうぶ!?」
「やはりテラス因子の過剰吸引による弊害、いや代償が出たか」
「代…償?」
「一時の体調不良だ。そこまで気にすることはない」
「なんで言わなかったの……!」
「言ったら怖じ気付くかと思ってな」
こいつ……!
「互いのケツを拭きあう、それが友情だな。うんうん」
ミタマを罵倒したかったが、そんな元気はもう無かった。
それに、まあ、勝てたし……。
「ミタマ!偉そうにしてないで、ザクちゃんを降ろして布団かけたげて!」
「うお、分かった、分かったよイナバくん」
「んもー!」
そう言って怒るイナバくんの顔。
なにかスッキリとして見えたのは、体調不良が見せた幻覚ではないと思いたい。




