12話:ザクロの悪辣なる作戦!そしてイナバの『選択』!!
「ぬうううううあああああっ!!」
汚い唸り声をあげて、殺意をひり出す。
「むっ!テラス因子が急増!」
「ザクちゃん……!」
ムリヤリに感情を動かしたけど、意味はあったようだ。
とはいえ、それだけで事態が好転したりはしない。
と思ってた。
「この量ならいけるやもしれん!浮力機いけるか!」
ミタマが何かを閃いたらしい。
ここは任せるしかない!
「い、いけるよ!飛ぶね!」
「飛ぶ!?」
「『浮く』って言った方が正しいかもだけど!」
浮力機……そういえば以前も使ってた。
とはいえ、空を飛べる訳じゃない。
着地時のショックの軽減に使ってたくらいの印象だったけど……?
フオオオォンと音が鳴る。
背中の機械が青く光る。
タカマガモリから重力が抜けるのを自分の体から感じられた。
浮力機の力なのだろうか?
巨大な機体がふわりと浮いている。
以前はこんなことしてなかったのに……。
出力が大きくなったおかげか?
しかし、浮いた高さはほんのわずか。
これでどう状況を打開しようと!?
「光爆発射!」
ミタマがそう言いながらパネルを操作。
両脚の外側の発射口から弾を発射する。
弾は激しい光と衝撃を放ち、機体が……軽々と吹っ飛んだ!!
なるほどそうか、浮力機とやらのお陰で、実際軽いんだから。
これで踏ん張りの効かない足場からは逃れられた!
兵隊アカバチ達は光で目が眩んではいないようだ。
すぐにこちらを追いかけている。
「む……怯まないか」
「ど、どうしよう!?」
今のうちに、相談しなければ!
殺気が脳にまわったお陰で思いついた作戦を!
「イナバくん、ミタマ!思いついた事があるんだけど……!」
「「!?」」
私は2人に作戦の内容を伝えた。
「ざ、ザクロ!本気か!?」
「そんなこと、ヒーローになりたい人がやる事じゃないよ!」
「ヒーロー『らしくない』って?」
イナバくんがグッと息を呑み、目を見開く。
「たしかにそうかもね……」
私は、じわりと湿ってきた手をグッと握った。
「でも案外、そうでもないのかもしれないよ」
「そんな、ふわっとした理由で!」
「1度ぶつかってみないと、見えてこない境目もあるんじゃないかな」
「!」
「自分の事なら特に、ね」
うっすらと思い出す。
忙しい仕事の中で、どこまで手を抜いても許されるかを試した時の事を。
クソ上司に辞表を突きつけてやった、あの時の事を。
「……ケツ拭いてくれる?ミタマ」
私の呼びかけに、ミタマはビクッと体を動かした。
そして少し考えこんだ後、チッと舌打ちのような音を出して答えた。
「ああもう!発言には気を付けんとなぁ!!」
「ミタマ……いいの!?」
「イナバくんが否定するのも分かるし、間違っては無いだろう!」
「だったら!」
「だが、間違いを恐れない度胸も、ヒーローには必要かもしれん……!」
「間違いを……恐れない……」
「俺だって完全に納得はしてないがな!やってくれ!イナバくん!」
イナバくんのふわふわな前脚が震えている。
彼はその前脚で自分の胸部をバンバンと叩き、気合を入れた。
「オーケイ!!」
ふっ飛んだタカマガモリが徐々に浮力を失っていく。
大体1キロほどは移動したところか。
ズズズズと足を地面にこすりつけながらゆっくりと着地した。
ビビビビビというカン高い羽音。
兵隊アカバチも全力で追いかけてきている。
囲まれるまでに誘導弾を撃つ余裕は無いだろうね。
だから……こうする方法を選んだ!
ババババババ!!!という大きな音が、ビルに反響して聞こえてくる。
空から、何かがこちらに向かってくる。
女王がその方向を警戒すると、兵隊もその動きを止めた。
ビルの影を縫ってこちらに向かう者の正体、それは──
ヘリだ。
怪獣が出現する区域と知ってもなお撮影のためにとどまっていた、撮影ヘリ。
それをイナバくんが、動かしている。
電波を介して、スマホに侵入した時のように──
ヘリにも電波を送受信する機能はあるはずなので──
そこから入り込み、操作権を掌握したのだ。
「イナバくん、操作は順調か!?」
「うん、操作自体はね……!」
含みのある言い方。
理由は想像できる。
撮影ヘリには当然、人が乗っている。
『突然ヘリが操作不能になって怪獣に突っ込んでいった』。
なんて状況になったら、私だってパニックになるだろうな。
まあ、避難命令に従わなかった人たちだ。
いる意味がないどころか、こっちからしたら邪魔ですらあったかもしれない。
だったら、ちょっとぐらい利用したっていいよねぇ~。
などと、殺意によって邪悪に染まった私は閃いてしまったわけだ。
……ヒーローのやる事じゃないな!
じゃなかった、『やる事じゃないかもしれない』な!
兵隊アカバチが、ヘリに酸を吐く準備をしている。
もちろん、ヘリを自爆特攻させるつもりはない。
気を引くだけで充分だ。
酸攻撃が確実に当たらない距離で威嚇してくれれば、それで!
「な、何をやっているのかね!!」
突然、機内に声が響く。
モニターの右下に、人影が映し出された。
ジンギ総長だ!
「キミらの戦闘を拝見してみれば、なんだコレは!」
「そそそそそ、総長!!」
ジンギも慌てているが、ミタマの慌てぶりはそれ以上だ。
「君たちが動かしているのは民間の、いいや現星人の搭乗機ではないか!!」
ジンギの焦りが、怒りに変わってきている。
「人命をなんだと心得ているんだ!!」
急に出てきていまさら何を言うかと思えば!
カチンとは来るけど、落ち着いて意見を……!
「お言葉ですがジンギ総長……」
「キミも彼らと同じ地球人だがな、今のキミはSTESのメンバーでもあるんだぞ!」
「それは分かります!ですが、この状況を打開するにはこれしか!」
「準備不足、練習不足、根性不足だからこういう状況になったのではないのかね!?」
「反省会してる場合じゃないんですよ今はァ!!!」
ああ、つい声を荒らげてしまった。
殺意で沸いた頭では、我慢がきかない……!
「なっ……!ええい、イナバくん!搭乗機の操作を止めろ!これは命令だ!STESの命令だぞ!」
「えっ……!」
イナバくんが驚いた。
スムーズに動いていたヘリが突然、フラフラとぎこちなく動き出す。
まるで、イナバくんの気持ちを表すかのごとく。
揺れる心を引き止めるために、私は声を張り上げて叫ぶ。
「イナバくん!」
ミタマも、祈るようにか細く、呟いていた。
「イナバくん……!」
ヘリの動きが、スムーズに戻った。
「……止めます」
「……!」
私は目を見開いた。
「そうだ!今、衛星軌道実弾砲を準備するからそれまで根性で耐えt」
プツンと、急にジンギの音声と映像が途切れた。
「通信、止めたよ」
……!
「ほら、さっさとしないと!」
「……うん!」




