表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

12話:ザクロの悪辣なる作戦!そしてイナバの『選択』!!

「ぬうううううあああああっ!!」


 汚い唸り声をあげて、殺意をひり出す。


「むっ!テラス因子(ファクター)が急増!」


「ザクちゃん……!」


 ムリヤリに感情を動かしたけど、意味はあったようだ。

 とはいえ、それだけで事態が好転したりはしない。

 と思ってた。


「この量ならいけるやもしれん!浮力機(ふりょくき)いけるか!」


 ミタマが何かを閃いたらしい。

 ここは任せるしかない!


「い、いけるよ!飛ぶね!」


「飛ぶ!?」


「『浮く』って言った方が正しいかもだけど!」


 浮力機……そういえば以前も使ってた。

 とはいえ、空を飛べる訳じゃない。

 着地時のショックの軽減に使ってたくらいの印象だったけど……?


 フオオオォンと音が鳴る。

 背中の機械が青く光る。


 タカマガモリから重力が抜けるのを自分の体から感じられた。

 浮力機の力なのだろうか?


 巨大な機体がふわりと浮いている。

 以前はこんなことしてなかったのに……。

 出力が大きくなったおかげか?


 しかし、浮いた高さはほんのわずか。

 これでどう状況を打開しようと!?


光爆(エスケープフレア)発射!」


 ミタマがそう言いながらパネルを操作。

 両脚の外側の発射口から弾を発射する。

 弾は激しい光と衝撃を放ち、機体が……軽々と吹っ飛んだ!!

 なるほどそうか、浮力機とやらのお陰で、実際軽いんだから。

 これで踏ん張りの効かない足場からは逃れられた!


 兵隊アカバチ達は光で目が眩んではいないようだ。

 すぐにこちらを追いかけている。


「む……(ひる)まないか」


「ど、どうしよう!?」


 今のうちに、相談しなければ!

 殺気が脳にまわったお陰で思いついた作戦を!



「イナバくん、ミタマ!思いついた事があるんだけど……!」


「「!?」」


 私は2人に作戦の内容を伝えた。


「ざ、ザクロ!本気か!?」


「そんなこと、ヒーローになりたい人がやる事じゃないよ!」


「ヒーロー『らしくない』って?」


 イナバくんがグッと息を呑み、目を見開く。


「たしかにそうかもね……」


 私は、じわりと湿ってきた手をグッと握った。


「でも案外、そうでもないのかもしれないよ」


「そんな、ふわっとした理由で!」


「1度ぶつかってみないと、見えてこない境目(さかいめ)もあるんじゃないかな」


「!」


「自分の事なら特に、ね」


 うっすらと思い出す。

 忙しい仕事の中で、どこまで手を抜いても許されるかを試した時の事を。

 クソ上司に辞表(じひょう)を突きつけてやった、あの時の事を。



「……ケツ拭いてくれる?ミタマ」


 私の呼びかけに、ミタマはビクッと体を動かした。

 そして少し考えこんだ後、チッと舌打ちのような音を出して答えた。


「ああもう!発言には気を付けんとなぁ!!」


「ミタマ……いいの!?」


「イナバくんが否定するのも分かるし、間違っては無いだろう!」


「だったら!」


「だが、間違いを恐れない度胸も、ヒーローには必要かもしれん……!」


「間違いを……恐れない……」


「俺だって完全に納得はしてないがな!やってくれ!イナバくん!」


 イナバくんのふわふわな前脚が震えている。

 彼はその前脚で自分の胸部をバンバンと叩き、気合を入れた。


「オーケイ!!」


 ふっ飛んだタカマガモリが徐々に浮力を失っていく。

 大体1キロほどは移動したところか。

 ズズズズと足を地面にこすりつけながらゆっくりと着地した。


 ビビビビビというカン高い羽音。

 兵隊アカバチも全力で追いかけてきている。

 囲まれるまでに誘導弾を撃つ余裕は無いだろうね。


 だから……こうする方法を選んだ!



 ババババババ!!!という大きな音が、ビルに反響して聞こえてくる。


 空から、何かがこちらに向かってくる。

 女王がその方向を警戒すると、兵隊もその動きを止めた。

 ビルの影を縫ってこちらに向かう者の正体、それは──


 ヘリだ。


 怪獣が出現する区域と知ってもなお撮影のためにとどまっていた、撮影ヘリ。

 それをイナバくんが、動かしている。


 電波を介して、スマホに侵入した時のように──

 ヘリにも電波を送受信する機能はあるはずなので──

 そこから入り込み、操作権を掌握(しょうあく)したのだ。


「イナバくん、操作は順調か!?」


「うん、操作自体はね……!」


 含みのある言い方。

 理由は想像できる。


 撮影ヘリには当然、人が乗っている。

『突然ヘリが操作不能になって怪獣に突っ込んでいった』。

 なんて状況になったら、私だってパニックになるだろうな。

 まあ、避難命令に従わなかった人たちだ。

 いる意味がないどころか、こっちからしたら邪魔ですらあったかもしれない。

 だったら、ちょっとぐらい利用したっていいよねぇ~。

 などと、殺意によって邪悪に染まった私は閃いてしまったわけだ。

 ……ヒーローのやる事じゃないな!

 じゃなかった、『やる事じゃないかもしれない』な!


 兵隊アカバチが、ヘリに酸を吐く準備をしている。


 もちろん、ヘリを自爆特攻させるつもりはない。

 気を引くだけで充分だ。

 酸攻撃が確実に当たらない距離で威嚇してくれれば、それで!





「な、何をやっているのかね!!」


 突然、機内に声が響く。

 モニターの右下に、人影が映し出された。


 ジンギ総長だ!


「キミらの戦闘を拝見してみれば、なんだコレは!」


「そそそそそ、総長!!」


 ジンギも慌てているが、ミタマの慌てぶりはそれ以上だ。


「君たちが動かしているのは民間の、いいや現星人の搭乗機ではないか!!」


 ジンギの焦りが、怒りに変わってきている。


「人命をなんだと心得ているんだ!!」


 急に出てきていまさら何を言うかと思えば!

 カチンとは来るけど、落ち着いて意見を……!


「お言葉ですがジンギ総長……」


「キミも彼らと同じ地球人だがな、今のキミはSTESのメンバーでもあるんだぞ!」


「それは分かります!ですが、この状況を打開するにはこれしか!」


「準備不足、練習不足、根性不足だからこういう状況になったのではないのかね!?」


「反省会してる場合じゃないんですよ今はァ!!!」


 ああ、つい声を荒らげてしまった。

 殺意で沸いた頭では、我慢がきかない……!


「なっ……!ええい、イナバくん!搭乗機の操作を止めろ!これは命令だ!STESの命令だぞ!」


「えっ……!」


 イナバくんが驚いた。


 スムーズに動いていたヘリが突然、フラフラとぎこちなく動き出す。

 まるで、イナバくんの気持ちを表すかのごとく。


 揺れる心を引き止めるために、私は声を張り上げて叫ぶ。


「イナバくん!」


 ミタマも、祈るようにか細く、呟いていた。


「イナバくん……!」


 ヘリの動きが、スムーズに戻った。


「……止めます」


「……!」


 私は目を見開いた。


「そうだ!今、衛星軌道実弾(サテライト)砲を準備するからそれまで根性で耐えt」


 プツンと、急にジンギの音声と映像が途切れた。


「通信、止めたよ」


 ……!


「ほら、さっさとしないと!」


「……うん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ