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11話:心無きアカバチ!否定せよ、ザクロ!!

「臭気センサーが反応してるよ!」


 臭気……?


「フェロモン、って奴かな」


「なに!?」


「虫がよく使うニオイのような物質で、他の虫に指示を送る時にも使うって聞いたことがある」


 女王の動きに合わせて兵隊アカバチがキビキビと動き出した。


 ヤツらはタカマガモリを中心に、等間隔で輪になって囲んでいる。

 ギリギリで格闘攻撃が届かない間合いだ。


 ブブブブという羽音が四方八方から聞こえ、不安を煽る。

 兵隊は、ピクリともせずにこちらを見つめていた。

 赤い目からは生気を感じられない。

 それがとても、胸の中をざわつかせた。


 アカバチ女王は、その陣形をさらに離れた距離から眺めて──。

 もう一度、身体を震わせた。



 視界内の兵隊アカバチが、ゴボゴボと水音を鳴らす!

 酸を吐く気だ!


「ミタマ!バリアとか無いの!?」


「申請しておく!」


 ええい!ならば避ける!


 タカマガモリの腰を軽く落とし、地面、もとい道路を強く踏みしめる。


 ズズズ!

 という音と共に機体が左に傾き、バランスを崩した!


 なに!なんなの!?


 モニターで左の足元を確認。

 道路が……酸で溶けている!

 さっき左脚部にかけられた酸が垂れて、道路に染みたんだ!


 溶けているとは言っても、ドロドロのペースト状ではない。

 小さな粒の集合体……シャーベット状態というべきか。

 どちらにせよ、タカマガモリの重量を支えられる状態ではなかった!


 ……最初の酸は、この為の布石でもあったわけだ!


 兵隊アカバチが酸を吐いた!

 防御!防御……!


「道路を使って!」


 !? !??  ……!


 イナバくんの呼びかけを理解した!

 体勢の崩れたまま、機体の腰を落とす。

 そして、溶けた道路と溶けてない道路の境目に手をかけ──。

 溶けてない道路を持ち上げて、盾にする!


 ジュジュジュワァ~~と炭酸の抜けるような音が、(道路)の向こう側から聞こえた。

 ホロホロと崩れ落ちる道路。

 その場しのぎにしかならないのは分かってる、でも一発防げればそれでいい!

 今の内に体勢を立て直して……。


「ザクロ!後ろだ!」


「えっ」


 ドゴウッッッ!!!!


「うげあああっ!!!」


 強烈な衝撃が、タカマガモリを、私を、襲う!

 背面からだ!

 背面にいた兵隊アカバチの一匹が、体当たりをカマしてきやがった!


 私達が前面に気を取られているのをいいことに……。

 いや、そもそも前面にしか気を付けていなかった私達がおかしかったんだ!


 タカマガモリが向いている方向の兵隊アカバチは距離を取って酸を吐く。

 向いてない方向なら体当たりでバランスを崩す。

 そういう作戦か……!

 シンプルだけど、厄介だ!


 ならば!


「イナバくん、そろそろ撃てる!?」


「まだ全部は装填できてない!」


「いいよ!あるだけでも撃とう!目標は女王(クイーン)!いいよね、ミタマ!」


「ああ!ダメージを与えれば、こいつらの指揮を崩せるかもしれん!うぐっ!!」


 なおも敵の攻撃は続いている!


「わかった、いくよー!」


 酸と体当たりのコンビネーションがタカマガモリを追い詰めている。

 ガグガグと揺れる機内。

 歯がガチガチとぶつかり合う。

 それでも、ビビってるわけにはいかない!

 殺気には届かないまでも、気合は入れてみる!


 再びタカマガモリの腕をクロス!

 肩から『自律誘導爆炎弾』 を発射する!

 光の玉が飛び出し、真上に飛んだ。

 弾数は4発。

 さっきの半分ほどか。


 玉……爆炎弾は女王に向かって真っすぐに飛んでいく!


 しかし、その爆炎弾を追いかけるように動く影があった!

 兵隊が……2匹!


 私が周囲を見まわすと、タカマガモリの真横にいた兵隊アカバチがいない!


「兵隊を動かしたの!?」


「臭気センサーには反応が無かったよ!?」


「命令ではないということか!兵隊の本能が、女王を守ろうと!?」


 その2匹が、爆炎弾よりスピードを上げて飛ぶ!

 そして、女王の手前で──


 ドゴオオン!!と、爆発が起きる。

 炎と煙があがる。


 だが、女王は無傷だ。

 盾となった兵隊2匹は脚が千切れ、胴体も半分えぐられた状態。

 それでも、女王のそばを離れない。

 その眼光には……やはり、生命を感じられない。

 痛みを感じている様子もない。


 背中が冷えるような感覚が走る。


「奴らには生存本能というものが無いのか!?」


「ただ、女王の武器となり盾となって動くだけ.……」


 ミタマと私は、その様子に驚いていた。

 知能の低い生物ほど、個ではなく種全体を守るように動くとは聞くけど……。

 きっと、その分の知能は女王が担っているのだろう。

 しかし、あまりにも、本能というプログラムに忠実すぎる。


「まるで、AI……」



 そう呟いたのは私じゃない。

 イナバくんだ。


「イナバくん?」


 驚いていると、またもガグガグと機内に衝撃が走る。


「うおわっ!」


「ぬうっ!」


 タカマガモリのまわりを囲む兵隊アカバチたちは耐えず攻撃を続けている。

 大量の酸で脆くなった足場で回避しようとしても、難しい。

 いや、足場だけじゃない。

 こっちの足そのものも、酸によるダメージが蓄積している。

 機体の酸による劣化は、もう無視できないほどになっていた。

 そこに体当たり。

 ボロボロと、タカマガモリの外装が削り取られていく。


「まずいな……!」


 モニターのユーザー()インターフェース()が赤く光る。

 ビーッビーッと鈍く震えるような音が機内に響く。

 どうしようもなくなっていく。


「あ、あああ……!」


 タカマガモリの脚が、ガクガクと震えだした。

 機体の姿勢制御は、イナバくんの役目。

 それが、不安定になっているようだ。


 巨大な機体がぐわんと傾き、膝をつく。

 粉々の道路が土煙をあげ、ゆらめいた。


「ボ、ボクだって、ボクは、なんでこんな……!」


「イナバくん!落ち着いて!!」


 イナバくんは激しく恐れ、慌てている。


 それに対して兵隊アカバチは、思考を、感情をまるで持たずに攻撃を続ける。


 心を失くし、王の為に忠実に動く生物。

 その強さに、私達は勝てないのだろうか?

 感情に振り回される者は、弱者なのだろうか?



 働いていた頃。

 辛い気持ちをおしこめて、我慢して、大丈夫なフリをしていた自分を思い出した。

 全体のために、個を消した自分を。

 心なき自分を。


 あの頃の私の眼に、似ている。

 アカバチの眼。

 だから、見ていて不快なんだ。


 あの頃の私は、強かったのだろうか。

 今の私は、弱いのか。



「──認めないっ!!!認めてやるものか!!! 」


「ザクロ!?」


「ザクちゃん!?」


 声に出していた。

 そうとも、認めてやれるものか。


 感情。 それは生きようとする本能、その燃料。

 自分を、自分の周囲を、より良くしようとする── 個人の意志。

 それは時に、個人より全体をより良くしようとする“社会の意志”とぶつかる。

 けれど、だからこそ強さが生まれる!

 ぶつかり合い、悩み、迷う者だけが持つ強さを──

 私の、ちっぽけなプライドを!

 否定なんて、させるものか! !


 否定する奴がいるってのなら!!

 私の自身の、汚い意志に従って──


「ブッ殺してやるッッッッ!!!」

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