1話:最悪の出会い!? 鬱病女×スーパーロボット!
感情をメインにする関係上、重めの部分もあります。
でもコメディあり、熱血あり、戦闘描写も気合入れました!
面白い作品に仕上がってるはずなので、ぜひご期待を!
立派な人間になりたかった。
沢山の人から賞賛を受ける自分を夢見ていた。
なのに、なぜ私はこうなってしまったのだろう。
平日の昼間だってのに、暖かな陽射しをもたらす外界を拒絶するかのようにカーテンを閉め切った、静かで薄暗くてジメジメした、あるアパートの1室。
その狭い部屋の中心で、ちょっと汗の臭う布団をかぶって寝ている情けない女。
上下スウェット、雑にまとめられた髪、目にはクマ、覇気のない暗い眼。
それが私──『土壇河原 柘榴』の現状である。
『なぜこんな事に』『誰のせい?』『きっと私自身のせい』『私が……』
脳内でする会議は、いつも同じ議題で、いつも同じ答えを出して終わり、また始まる。
あまりの辛さに体をゴロゴロさせていたら、壁に顔をぶつけた。痛い。
スマホを手に取って、脳内会議をムリヤリ止めるために、SNSに流れてくる文字を読んだ。
『東京近海に隕石衝突! 不幸中の幸いにも死傷者ゼロ!』
……ダメだ、こんな大事件に対しても、漠然とした不安感しか湧かない。
山梨在住の私にとって、東京は右隣の県だけど、ここまで被害は届いてないみたいだし。
と、スマホに、数か月ぶりのLINEが届く。
妹──『土壇河原 椿』からだ。
[隕石が落ちたって聞いた? こっちは大丈夫。そっちは? ]
私は少し考えてから、返事を送る。
[こっちは大丈夫。心配しないで、ありがと]
[ごめんね。もしかして仕事中だった? ]
[休憩中だったから問題ないよ]
嘘である。
私は今、絶賛バリバリ無職だ。
23歳にして鬱をわずらい、職を辞して現在に至る。
もう一度言おう、私は情けない女だ。
[なにかあったらすぐ連絡してね! こっちもこれから仕事だから、すぐに返信できないけど……]
それだけに、妹の立派さと気遣いが、重い。
ペシャンコになりそうだ。
スマホの画面を消し、ハア~と大きくため息をついて、身体をゆする。
このままでいいと思ってるわけじゃない。
いやむしろ、現状に焦ってはいるんだ。
私は、私を変えたい。
でも、どうしても気力が出ない。
ああ、何か、起きてくれないものかなあ。
私という人間を大きく変えてくれる、奇跡みたいな出来事が……。
と、窓をコンコンと叩く音が聞こえる。
……鳥か、虫かな?
放っておくと、またコンコンと音が鳴る。
私は重たい頭と視線を窓の方へ向ける。
揺れないカーテン越しに何か、小さい陰が見える。
縦横1mいかないほどの、人型。
どうみても大人ではないし、子供だとしたら横幅がデカすぎる。
っていうかそもそも、この部屋はベランダ無しの2階部屋だ。
変態? いや待て私、だとしたらわざわざノックするあたり、ずいぶん紳士的な変態だ。
幽霊? 真昼間から? 私の部屋にこもる陰気に誘われて現れたか? 盛り塩でもしておくべきだっただろうか。
私は身体を起こし、いつでもチョップを放てる体勢で構える。
こういうのを世間では無駄な抵抗と言うのだろう。
……。
ノックの音が止んで少し経つと、窓がカララと音をたて、ゆっくりと動き出した。
しまった! 鍵をかけ忘れていた!
私のバカ! カスの防犯意識! 迂闊! 油断体型! 不規則な食生活! ええと……。
私が自分を罵倒するセリフを探している間に、窓はすっかり開かれてしまった。
心臓が身体を大きく揺らしているのを感じる。
カーテンがザワザワと揺れて、爽やかな風と、痛いくらいの光が顔に飛び込み、人影がその正体を表す。
……ロボットだ。
……空中に浮いている。
人型で、金属的で、ゴテゴテとした凹凸が目立つ。
白を基調としたシンプルな配色だけど、これが兵器だとしたらあまりに現実的じゃない配色だ。
腕と脚、胸に肩は太めで、そのかわりに関節は細め。
目に該当するだろう部分は暗く、そこから緑色の光が放たれ、眼光を表現している。
背中から水色の光が漏れている。
そこから、宙に浮くためのエネルギーが出ているのだろうか?
つまり、まあ、まるでロボットアニメの主役のような、2足歩行人型ロボットが目の前にいるのだ。
正直、ちょっとカッコいい。
……体長は1メートル前後しかないけど……。
ロボットは、ガギョンガギョンと冗談みたいな足音を立てながら、窓から降りて部屋に入ってくる。
とてもじゃないけど、こんな硬そうなのにチョップをかまして追い出す勇気は出ない。
ついでに言えば、声を出す勇気もない。
ここ数日、誰とも会話してないから声が出ないとかではなく、だ。
ので、仕方なく侵入を受け入れることにした。
ロボットは私の顔に視線を動かし、脇をしめてピンと直立する。
そして、深々と頭を下げ、お辞儀をした。
「無許可で部屋に入ってすまなかったーっ!」
うるせぇ!
大人の男性、それもクソ真面目な奴。
そんな印象を受ける声だった。
「俺の名はミタマ。『太陽系脅威生物|対策《Enforcement》組織』……略して『STES』の実行部隊員。つまりは……宇宙人だ」
は? 太陽……なに?
「突然だが、俺たちに協力してほしい。地球を守るために!!」
地球をなに? どういうこと?
情報量が……情報量が多い!!
「話を端折りすぎだよ、ミタマ!」
!?
ミタマとかいうロボットの声とはまた違う声が、背後から聞こえてきた!
あわてて振り返ると……!
……よくわからない獣が浮いていた。
全長5、60センチほどの、細長い体。
白いふわふわの毛をした、四足歩行の獣。
真っ黒な目に、真っ黒な鼻。
オコジョかイタチみたいに見えるが、耳は兎のように尖っている。
そんな獣が、青いオーラのような光をまといながら浮いていた。
私は情報量の多さに耐えきれず、ドスンと尻餅をついた。
「な……なんなのアンタら……!」
やっと声が出た。
「驚かせてごめんね。僕はイナバ! AIなんだ! イナバくんって呼んでね!」
え、AI?
そういえばイナバの姿をよく見ると、向こう側がうっすらと透けて見える。
立体映像ってことなんだろうか。
その立体映像が会話を続ける。
「つい最近、この国に隕石が衝突したって知ってる? 実はアレには、惑星侵略生物───『怪獣』の卵が付着していたんだ!」
な、なんだってー!?
って、そんな突拍子も無いことを言われても信じられるわけ……
と、突然イナバが何かに気づいたように反応し、スリープ状態だったテレビモニターに向かって手を伸ばす。
すると、触れてもないモニターの電源が付いた。
AIの能力ってことなんだろうか。
映ったニュース番組のキャスターが、あわてた様子で喋る。
「緊急事態です! 東京近海から、突然巨大生物が出現し、建造物を破壊しながら北上! 政府は……」
「きょ、巨大生物!? 怪獣ってこと!?」
「うん……」
「クソッ、今回は早いな!」
私の問いにイナバが返事し、ミタマが拳を握って苛立ちを表す。
ニュース画面に向き直ると、怪獣の姿が映る。
10階立てのビルを超える高さ、50メートルほどだろうか。
爬虫類のような深い緑色のウロコを持っているが、前足は長く太く、まるでゴリラのような歩行をする。
顔は爬虫類顔だけど、前後には長くない。
グロロロロロと、ワニのような唸り声を発しながら、長い尾を振り回し、無差別に建築物を破壊し、歩く。
その眼は無機質なようにも、憎しみが籠っているかのようにも見えた。
不気味としか言いようのない生物。
こんな脅威が現実に存在するなんて……!
私は歯を食いしばって目の前の非現実的な現実に耐える。
……映像では戦闘機が怪獣の周りを飛んでいる。
「この国の……いや、この星の兵器では、残念だが太刀打ちできないだろうな」
私はバッとミタマの方を向いて問いただす。
「アンタらなら……いや、貴方たちならなんとか出来るってこと……ですか!?」
「敬語でなくていい。倒せる。だが、そのためには……」
「キミの協力が必要だってこと!」
真剣そうなミタマと違って、イナバは明るく言葉を繋げる。
私はミタマとイナバを交互に見てから、自分を指さした。
「私が……!? なんで……?」
「詳しく話したいのは山々だけど、僕らには……いや、地球人には時間がないんだよ! わかるよね?」
モニターの中継映像は、まだ続いている。
怪獣がビルに身体をぶつけ、破壊しながら進むと、崩れたビルの一部が支えを失い、道路に衝突してガラスやコンクリートの破片を散らす。
そのたびに悲鳴が大きくなっている。
怪獣の尻尾がブルンと振れると、小さな建築はバゴバゴと砕けて黒い煙があがる。
その黒煙がもくもくと膨れながら昇り、私の心にまで入ってくるようだった。
私はゴクリと唾をのむ。
「キミの勇気を、力を貸してくれ、地球人!」
そういってミタマは私に向かって、小さな手で握手を求める。
心臓の音が小刻みになり、口の中が酸っぱくなった気がする。
助けられるなら、そりゃ助けたいよ。
見殺しになんてできるわけがない。
でも……私は……。
昨日から着っぱなしだったスウェットが汗を吸い、ズンと重くなった気がする。
さっきまで寝転んでいた敷布団から根が生えて、私の足に絡まっているような気がする。
その時、私の代わりにか、スマホがブルブルッと震えだした。
電話だ。
「ちょ、ちょっとごめん」
スマホの画面を見ると、妹のツバキからの着信だとわかった。
「ツバキ!?」
「お姉ちゃん、無事!?」
「私は無事だけど……」
「よかった! 巨大生物のニュース観た!?」
「う、うん」
「あの生き物、こっちに向かってるってニュースでやってて……アタシは避難するけど、心配しないでね! また掛けなおすから! 絶対!」
! そうだ、そういえば妹は東京の北隣の県──埼玉で仕事しているんだった!
さっき、怪獣は北上しているってニュースで言ってた! つまり……!
「ツバk──」
プツッと通話が切れた。
と同時に、焦りからか、ドッッッと私の頭に何かが流れて、脳がムリヤリ覚醒していくのを感じる。
ここで私が断れば、きっとその分、怪獣を倒すのに時間がかかるのだろう。
もしそれで怪獣が埼玉まで行けば、もしかしたら妹が……!
私は、足に絡まる根をちぎるかのように片足ずつを大きく振り、スウェットの重さを振り払うように上体を左右に振る。
ミタマをバッと見ると、まだ私に向かって手を伸ばし続けていた。
「私に、何ができるかわかんないけど……!」
そう言って私はミタマの硬い手を握り返す。
助けなくちゃ! 妹を!
「やったぁ!」
「ありがとう!」
イナバもミタマも嬉しそうだ。
こっちは不安で胸がいっぱいだというのに。
私は唇をグッと噛んで文句を抑えた。
「そういえば、キミの名前を聞いてなかったな、地球人」
「……ザクロ。『土壇河原 柘榴 』」
「ようし、それじゃあ転送するよ!」
「転送って」
その問いに答えが来るより先に、私の身体が淡い黄色の輝きに包まれ、フワリと宙に浮いた。
なななななななななななんだこれ!?
唐突な光と浮遊感にビビッて、ほんのちょっと漏れた。
「わ!わ!わ!わ!わ!」
「怖がらないで! ザクちゃん! すぐに着くよ!」
光そのものみたいになった私は、窓から空へと飛びだし、そのまま大気圏近くまで昇っていった。
そこで私は見た。
『怪獣』と変わらないほどに巨大な、人型の白い影を。
それこそが、宇宙人たちの使うスーパーロボット『タカマガモリ』だったのだ!
もし期待できそうなら、応援よろしくお願いします!




