表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/11

Ⅵ.大いなる帰還 1

Ⅵ.大いなる帰還(グロリアスアライバル) 1


 土煙を上げ、近づいてくる何か。そして空に広がる幾つもの白い点。


 最初にその姿を現したのは、線路を突進する巨大な黒い機関車だった。


 その機関車はいつかの軽便鉄道よりも何倍も大きく、速度も倍以上あるようだった。吐き出す煙には七色の残滓があり、高カロリーのデネブ無煙炭を使用していることが見て取れた。


 近づくにつれ、その機関車が装甲を施した軍用機関車だということが見えてきた。牽引しているのは給炭/給水車と、そして。


「なんだろう、あれ」

大砲(おおづつ)じゃろうて」


 二つの台車に跨って搭載された、機関車本体よりも長い大砲。それは大口径の列車砲だった。


 その後ろには、弾薬運搬貨車と、指揮車輌と、兵員輸送用のコンパートメント、資材のコンテナ車が続く。それは圧倒的な破壊力を予感させる鋼鉄の塊だった。


 機関車は止めてあったトロッコのすぐ手前で停車した。見事な運転だった。運転室からひょっこり顔を出したのは、軽便鉄道を運転していたあの太った機関士だった。


「おおーい」

「おじさん?」


 ハワードと少女は真っ白な蒸気に包まれた機関車に駆け寄る。


「おう、これはこれは。どちらがどちらか分かりませんな」


 機関士は戸惑いの声を上げた。


「ぼくがハワードだよ」

「おお、またお会いしましたな、フィリップス陛下。これは何かの撹乱戦術ですかな」

「まあそんな所」

「うふふふ」


 二人は双子よろしく並んで手を繋いで見せた。


「でも、どうしておじさんが軍用列車を動かしているの?」


 少女の問いに機関士は、


「いやなに、斥候の兵に国中の線路に詳しい、という話をしましたらね、案内人に徴用されてしまいまして」


 くしゃくしゃな機関士の帽子を脱ぎながら説明する。


「ついでに腕も確かだ、と売り込みましてな。かような次第となったのですわ」


 とウィンクしてみせる。


「はああ」


 感心していると、後ろの兵員輸送用のコンパートメントのドアが勢い良く開いた。降りて来たのは茶色のジャケットと、白い短いスカートの少女たちだった。


 一番年かさの者でも十二歳くらいにしか見えない。しかし少女たちは無駄口もきかずに、きびきびと立ち働いていた。


 連結器を外すもの、車輌から物資を下ろすもの、ハワードたちの乗ってきたトロッコを撤去するものもいた。みな良く訓練された兵士だった。

 

 次に降りてきたのは緑のジャケットを着た少女たちだった。彼女たちは列車砲の周りに集まり、工具を手に砲の発射準備をしているようだった。


 最後に青いジャケットを着た、これも女の子ばかりの一群が次々と降車してくる。彼女たちは作業には加わらず、隊列を組んで点呼を開始していた。


 良く見ると、運転室にも十歳くらいの少女が一人いて、スコップを手にしていた。給炭係りをやっていたらしい。


「この子たちはいったい?」


 無名乙女(ネイムレス・ドウター)がそう聞くと、機関士は答えた。


「アンジェリアン軍団(ガールズ)ですわ」

「ガールズ、て」

「ご存知ありませんか。隣国アンジェリアンの、アンジェリカ陛下率いる美少女軍隊ですよ。幼い少女のみで編成された無敵の軍団です」

「その通りだ」


 かわいらしい、しかし威厳のある声が響く。見ると、指揮車輌から一人の少女がひらりと飛び降りたところだった。


「ただし補足するなら正式名称はアンジェリアン軍団(コーア)王立少女近衛(ロイヤル・ガールズ)師団(デヴィジョン)だ。わが軍の中でも選りすぐりの精鋭たちだ。俗にガールズとも呼ばれているがな」


 十二歳くらいの、輝くような金色の巻き毛の少女だった。


 美しく整った顔立ちに、澄んだ青い瞳。化粧の必要のない真っ白な肌に真っ赤な唇。その身を包むのは金モールのついた将軍の軍服だった。


 肩には金色の肩章、胸には勲章をずらりと並べている。紫のチェックの短いスカートからは健康的な太く長い足が伸び、踝までの革のブーツを履いていた。


「指揮官のアンジェリカだ。見知り置き願おう」


 腰に手を当てて立つ姿には、堂々とした王者の風格があった。


 それではこの少女が、隣国の偉大な女王にして王女、三権の長にして三軍の長、司祭にして巫女、神聖不可侵の姫将軍閣下なのか。


 ハワードは眩しそうに、自信に満ち溢れた美しい少女を見た。その視線を捉え、アンジェリカはニコッと笑った。


「失礼だが」


 アンジェリカは快活に訪ねた。


「どちらがフィリップス陛下ですか」


 ハワードは一歩進み出た。


「はじめまして。ハワード・フィリップスです。この度の援助、感謝いたします」


 アンジェリカは武人らしく、こくっとうなづいてみせた。ハワードが女の子にしか見えないこと、そっくりな二人が並んで立っていることには触れなかった。そして少女の方を見て、


「すると、君が話題の無名乙女(ネイムレス・ドウター)だね」


 少女は膝を軽く折って礼をした。


「お初にお目にかかります、陛下(ユア・マジェスティ)

「ははは、陛下はやめてくれたまえ」

「ではなんとお呼びすれば」


 無名乙女(ネイムレス・ドウター)の問いに、


「そうさな。姫殿下(プリンセス)か、姫将軍(プリンセスジェネラル)とでも。その方が好みじゃ」


 そこへオータムがやって来ると、うやうやしく頭を下げた。


姫殿下(プリンセス)にご挨拶を。こたびの遠征、まこと感謝いたします」


 アンジェリカは首肯して、


「レッドシープの報告にあった守護者どのですな」

「ははっ。それがし、オータムと申すしがない読み本屋にてございます。義によってこの子ら、いやいやフィリップス陛下の助太刀に馳せ参じたものにてございます」

「そなたの無私のご助力、聞き及んでおる。大儀であったなご老体」

「もったいなきお言葉。この爺めはただ年若きものの(しるべ)ならん、捨石ならんと祈念してここまで参った次第」

「ふむ。こたびの(いくさ)、魔法戦の様相を呈するものと予測されておる。ご老体は斯界の権威と聞く。我らの方が教えを請うこともあろう。その折は助言、助力いただければありがたい」

「もったいなきお言葉。ところでご無礼を承知でお教えいただきたき儀がございます」

「申してみよ」

「は、他ならぬレッドシープ大尉の安否にてございます。我ら、階段都市にて艦砲射撃に襲われしかの人を目撃しております」

「ああ、そのことか」


 姫将軍は笑って、


「安心いたせ。無事じゃ。もっとも愛馬ホーカー号が手傷を負ってな。今は兄弟馬のケストレル号にて王城を高高度偵察中じゃ」


 その話を聞いてハワードたちもほっと胸をなでおろした。無名乙女(ネイムレスドーター)は、


「じゃあさっき見えたのは、やっぱり」


 とつぶやいた。


「それに、の」


 アンジェリカ姫将軍はかすかに頬を染めて、


「あの者には死を許しておらぬゆえ」


 オータムは黙って頭を下げた。


 と、副官らしい白いジャケットを着てお下げ髪を結った少女が背後に現れた。二の腕を水平にして手のひらを相手に見せる王室陸軍(ロイヤル・アーミー)式の敬礼をした。


報告(リポート)! 」

「なにか」

「レッドシープ大尉が帰還されます」


 さっと空の一角を指差す。一同がそちらを見ると、天馬ケストレル号が螺旋飛行で速度を落としつつ、徐々に高度を下げているところだった。騎乗するレッドシープ大尉の紅のジャケットが灰色の空に映えていた。


 天馬(ペガサス)は列車の近くにふわりと着地すると、馬上から革ケースに入った地図らしいものを緑のジャケットの砲兵の少女に手渡していた。


 そして何か補足説明をすると、手綱を引いてハワードたちの方向へと並足で近づいて来た。にっこりと笑い、手を降る。


 アンジェリカ将軍も微笑み、手を振っていた。が、はっと気づき、咳払いすると副官に、


偵察員(スカウト)の帰還なぞいちいち報告する必要はない」

「は、申し訳ございません」


 副官は懸命に笑いを堪えながら一礼した。


 やがて近づいてきたケストレル号は、大尉の手綱に呼応して一馬身の距離で止まる。ひらりと下馬した大尉は敬礼して、


「ただいま戻りました将軍閣下」

「ん、大儀」


 アンジェリカは片手を上げて略式の敬礼を返した。


「フィリップス陛下がお着きだ。お相手いたせ」


 大尉はハワードたちに向かい敬礼しつつ、


「は、しかしながら任務がありますれば」

「任務とな。たった今偵察を終えたところであろう」

「はっ。ですが自分は部隊の先任士官ですので。先発いたしますことをお許しいただきたく」


 アンジェリカは鷹揚にうなずいた。


「許可する。とっとと行くが良い」

「はっ。上空にて戦闘待機いたします。ではこれにて御免」


 そしてまた馬上の人となると、ケストレル号の腹を軽く叩いた。天馬(ペガサス)は翼を広げると、ほとんど垂直に上昇してゆく。


 アンジェリカはその姿をずっと目で追っていたが、軽く頭を振り、


「無骨者め」


 とつぶやいた。


 そうこうしている内に、アンジェリアンガールズ軍団たちは湖の岸辺に一大砲兵陣地を築きつつあった。小型の起重機(クレーン)を組み立てて、本来の線路に接続する形であらたに円形の線路を敷設していた。


 作業に当たっているのは茶色のジャケットの工兵部隊の少女たちで、完成した線路に列車砲を移動させていた。この環状の線路を移動させることで照準するのだ。


 そして本来の線路上には装甲列車に連結された兵員用コンパートメントがあった。こちらには青いジャケットの歩兵の少女たちを乗せて王都に強襲を掛けるのだと言う。


 線路の敷設と並行して、緑のジャケットの砲兵部隊の少女たちは列車砲の調整に余念がなかった。


 アンジェリカは部下に命じて、線路から離れた小高い丘の上に、臨時の指揮所を設けさていた。そこには照準用の測距儀が据えられた。


 ややして副官が報告した。


「砲兵隊より報告。列車砲『ロベルタ』発砲準備完了とのこと。また、レッドシープ大尉の偵察により、王城内の主要な防衛設備の座標をプロット済みとのこと」


 続いて報告に来たのは青いジャケットのおかっぱ頭の子だった。


報告(リポート)。歩兵各隊はコンパートメントに全員乗車。王都へ向けいつでも進発できます」

「歩兵部隊は現状待機。空間騎兵(エア・キャバリー)本隊はどうか」

「は、現在」


 さぁっ、と天馬(ペガサス)に乗った騎兵の一群が列車の上空を通り過ぎてゆく。その数は百ではきかない。騎乗しているのは紅のジャケットを着た、やはり幼い少女たちだった。


 その一群に、上空待機していたレッドシープ大尉も合流する。


「現在、湖上空です」

「よろしい。空間騎兵隊はそのまま湖上で戦闘待機。砲兵隊、列車砲『ロベルタ』による拠点制圧砲撃を開始せよ。弾種は徹甲弾。周辺地域への被害は極力避けよ。砲撃の後、空間騎兵は王都に進出。制空権を確保しつつ、歩兵部隊の突入を支援せよ」


 指揮所では白いジャケットの通信士が、手旗信号で各部に指示を伝えている。小さな女の子が必死で赤旗と白旗をパタパタさせている様子はどことなくユーモラスで、戦場の光景とは思えなかった。


 架台に水平に寝かされていた列車砲が急角度に鎌首をもたげる。


 緑のジャケットを着たポニーテールの砲兵大尉が目標をプロットした地図と計算尺を手に、測距儀を覗きながら指示を出していた。


「装薬、三。弾種、徹甲弾。目標、城内の物見の塔A」

「砲身固定。遊底開放」


 ハワードたちもアンジェリカと共に指揮所(と言っても、折りたたみ式の机の上に地図が置かれているだけだったのだが)で戦闘の推移を見守ることになった。


「諸君の出番はもう少し後になる」


 アンジェリカはそう言って意味ありげに笑った。


 やがて装填を完了した『ロベルタ』から、手旗信号が送られて来た。アンジェリカは頷き、そして命じた。


「攻撃を開始せよ」


 姫将軍の指示に、砲兵士官の少女が号令をかけた。


撃て(ファイヤー)!」


 大音響とともに発射された弾丸は、放物線を描いて城内へと吸い込まれるように落下して行く。指揮所で双眼鏡を覗いていた緑ジャケットの観測員は、


「着弾まで、三・・・二・・・弾着、今(インパクト・ナウ)」 


 着弾点に虹色の光芒広がるのが肉眼でも見えた。


「上空の観測員より信号。初弾命中、繰り返す、初弾命中」


 そうして立て続けに城内の主要拠点、とりわけ見張り塔や高射砲などを破壊し尽くすと、アンジェリカは次の命令を下した。


「空間騎兵隊、進出。残存地上兵力を排除せよ。歩兵部隊は突入準備。主要拠点の制圧に備えよ」


 矢継ぎ早に指示を出す。


 ハワードたちはひそひそと話しあった。


「なんだか順調ね」

「うん、なんかぼくらの出る幕がないみたい」

「ま、もう少し待つが良い。雑魚は押さえられても、黒の女王(クイーン・クロノ)にはこうした戦い方は通用せん」


 しかし、順調に見えた作戦は思わぬところから綻び始めた。


 周囲を監視していた見張りから手旗信号で連絡が入ったのだ。指揮所で双眼鏡を覗いていた白ジャケットの通信参謀が、驚くべき報告を叫んだ。


「デバステーター号、接近!」


 その報告を聞くと、アンジェリカは小さく、「早すぎる」とつぶやいた。


「デバステーターって、階段都市を制圧していた」

「君たちがそこにいると情報をリークしていたのだ」


 とアンジェリカが説明した。


「それで足止めをしていたのだが。あいつに出てこられると少々困る」


 デバステーター号は湖の上空に姿を現した。有翼の小鬼(インプ)がぱっと船から飛び立った。小鬼(インプ)たちはまっすぐに列車砲と指揮所に向かって来る。


 アンジェリカは、


「空間騎兵隊に発光信号。上空援護を要請。ただし阻止行動に制限」

「はっ」

「伝令はいるか」

「は、ここに」

「歩兵各隊に命令。降車して対空戦闘用意。円陣防御態勢。ウインチェスターライフルの使用を許可する。ただし、弾薬はコルク弾を使用のこと」

「コルク? 訓練弾ですか、しかし」

復唱せよ(リピート)

「はっ! 対空戦闘用意、円陣防御態勢、ウィンチェスター、弾薬は訓練弾!」


 不服そうな伝令を見送ったアンジェリカはオータムに向かって、


「ご老体、いかがかな」

「ふむ。姫殿下(プリンセス)のご懸念はごもっともですな。コルク弾なら気絶で済みましょう」

「私の考え過ぎかもしれぬが」


 ハワードはオータムの袖を引いて、


「なに、何のこと」

「いやなに。子ども狩りと黒の軍団(ダーク・コープス)の関係がな」

「?」

「あっ」


 少女は短く叫んだ。


「まさか」

「どうしたの?」

「私、捕まったときに地下牢に入れられていたの」


 少女はゆっくりと話した。


「だけど、牢には誰もいなかった。子ども狩りで捕まった子は一人も」

「どういうこと? 黒の女王(クイーン・クロノ)に食べられちゃったってこと?」


 ハワードは黒の女王(クイーン・クロノ)に迫られた時のことを思い出して身震した。


「いえ、そうじゃなくて。たぶん」

「たぶん?」

「来たぞ。私のサーベルを持て」


 アンジェリカは部下に命じてサーベルを持ってこさせると、抜刀せずに鞘を抜かないまま構えた。上空を有翼の小鬼(インプ)が埋め尽くしていた。


「歩兵部隊に発令。任意に攻撃せよファイヤー・アット・ウィル


 小鬼(インプ)たちは列車砲と、それを守るために円形の陣を取ったアンジェリアン軍団に襲い掛かった。あちこちでウインチェスターライフルが火を噴き、無害なコルク弾を打ち出す。


 だがコルク弾ではよほど当たり所がよくないと小鬼(インプ)たちを撃退することは出来なかった。


 あちこちでアンジェリアン・ガールズたちは押されていた。臨時指揮所にも小鬼(インプ)たちが押し寄せ、アンジェリカはサーベルを鞘ごと振り回して寄せ付けないようにしていた。


 オータムは例によって懐から出した本を手を振り回して奮戦していた。武器のないハワードと無名乙女(ネイムレス・ドウター)は、しゃがみこんで小鬼(インプ)たちの鋭い爪を避けるのが精一杯だった。


 ところが。


 ハワードの眼前で、額にコルク弾を受けた小鬼(インプ)が、「キャッ」と叫んで地面に落ちた。


 と、その角がポロリと落ち、背中のコウモリの翼も抜け落ちた。その醜い顔はみるみるあどけない子どもへと変化し、硬い石のような体もすべすべした肌に戻っていった。


「子ども? それじゃこの小鬼(インプ)たちって」


 驚愕するハワードにオータムが答えた。


「やはりな。黒の女王(クイーン・クロノ)め、子ども狩りでさらった子たちを小鬼(インプ)に変えて使役していたのじゃな」

「なら、黒の女王(クイーン・クロノ)を倒せば魔法が解けて」

「そういうことじゃな」


 そしてアンジェリカに向かって、


姫殿下(プリンセス)!」

「なにかなご老体」

「見ての通りにございます。ここは段取りを早めて、この子たち、いやいやフィリップス陛下たちに一働きしてもらわねば」

「心得た」


 サーベルで眼前の小鬼(インプ)の額を軽く叩く。角はポロリと落ちて、見る見る元のかわいらしい子供の姿に戻って行った。アンジェリカは気を失ったその子を抱きとめると、副官に向かって、


「砲兵隊に連絡! 弾種、人間砲弾。目標、玉座の間。フィリップス陛下をお連れ申せ」

「はっ」

「ちょ、ちょっと、人間砲弾てなに」


 オータムはしれっとして、


「うむ。だからな、大砲の弾に乗って一気に敵の心臓部にそなたたちを送り届けるという、戦史に例を見ない斬新な戦術なのじゃ」


「斬新すぎるよ!」


 アンジェリカがまじめくさって、


「わが砲兵隊を信じよ。これまで何度も実験して安全性は確認しておる。必ず無事に玉座の間に、黒の女王(クイーン・クロノ)の鼻先に打ち込んで見せよう」

「そんなぁ」


 泣き言を言うハワードに無名乙女(ネイムレス・ドウター)は、


「覚悟を決めなさい。男の子でしょ」

「だからぼくは女の子がいいのに」


 だが、それしかないのならやるしかない。ハワードは唾を呑み込んだ。決意に面を引き締める。


 混戦の中、オータムにエスコートされ、どうにか列車砲の元にたどり着く。


 上空では空間騎兵が、やはり鞘に納めたままのサーベルで小鬼(インプ)たちの額を打ち、子供の姿に戻ったものを抱きとめて、地上に下ろしていた。


 地上では歩兵部隊がコルク弾で小鬼(インプ)を次々と撃っていたが、なかなか思うところに命中させられずに悪戦苦闘していた。


 列車砲の周囲は青いジャケットを着た歩兵部隊に厳重に守られていた。


 装填台にはすでに人間砲弾が用意されていた。それは普通の砲弾とは違い、側面に観音開きのハッチがあり、内部はクッション材で覆われていた。


「あの、これに二人乗るのですか」


 ハワードが恐々聞くと、緑ジャケットを着てメガネを掛けたかわいらしい丸顔の砲兵士官が、


「はい。しっかりと抱き合っていれば子ども二人で乗れます。しっかりと、隙間が出来ないくらいに抱き合えば」


 そしてポッと頬を赤くする。


「しっかたないわねぇ」


 無名乙女(ネイムレス・ドウター)はうれしそうに困ったふりをしていた。


 ハワードはそんな彼女の様子に気づかずに、決意も新たに砲弾に乗り込もうとした。が、


「テバステーター号だ!」


 誰かの叫びに空を見る。黒い帆船が列車砲へと近づきつつあった。


「あやつ、こちらの作戦に気づいたか」

「まさか」


 デバステーター号は空中で方向転換し、側面を列車砲に向ける。二列二十門を超える舷側砲が狙っていた。


「む、いかん」


 だが、デバステーター号が発砲するその瞬間、なにかがその船体に体当たりをした。大きく揺れたデバステーター号は、見当違いの方向に向けて一斉砲撃した。


「なんだ、なにがあったのじゃ」


 オータムがあたりを見回していた。ハワードは空を見て、あっと叫んだ。


「シャンタク鳥!」


 それはカダス亭のバックヤードにいた怪鳥だった。鱗に覆われたその体は、今の体当たりにも傷一つついていない。翼を広げたその大きさはデバステーター号のマストほどもあった。そして、その背には調理服を着たモーラの姿があった。


「モーラさん!」


 モーラは手に持ったフライパンを振って見せた。その視線の先にはアンジェリカの姿があった。サーべルを天に向けて答礼していた。


「ふふ、恋敵どうし共闘かの。これも女の戦いじゃな」


 にやにやしているオータムに、子供ふたりはキョトンとして顔を見合わせた。


 そして、シャンタク鳥は再びデバステーター号に体当たりを食らわせて砲撃を阻止する。


「だ、大胆な戦い方だなあ」

「さ、今のうちに砲弾に」

「そうはさせぬ」


 突然低い声が聞こえる。見ると、いつの間に円陣防御のラインを突破したのか、三つの首を持つ巨大な犬が列車砲のすぐ側にいた。空中の戦いに気を取られている隙を突かれたらしい。


 地獄の番犬、ケルベロスは四肢を踏ん張り、今にも飛び掛ろうとする態勢で子どもたちを睨みつけていた。

Ⅵ.大いなる帰還 2 につづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ