97 過去を断ち切る刃
「ただいま。」
「ああ淳君。お帰りなさい。」
家に帰ると、血のつながっていない法律上の母親が出迎えてくれた。
出迎えてくれたのが義妹じゃなくてよかった、と心の中で安堵しつつも、覚悟を決めて目の前にいる母親に話しかけた。
「母さん。ハサミ……髪切りバサミってない?」
次の日、学校に登校し、下駄箱で靴を脱いだ時……。
「陸、おはよう。」
「……ああ、佐藤。おはよ……ぅ……。」
顔を上げると、そこにいたのは佐藤。でも……。
「髪……。」
「髪? ああ、切ったんだ。どう? 似合う? ていうか気づかれないかと思ってた。ちょっとしか切ってないし。」
そう言って笑う佐藤。
そりゃ似合ってるけどさ……。
佐藤の髪は、昨日の時点では同じ長さだったこめかみが、片方だけバッサリ切られてる。
なんだろう。アシメかな。
「……どうして切ったの? 何かあった? あ、料理中に焦げた?」
「ん? 過去の自分を切り離した。今までずっとあの髪型だったけど、やっぱり変えたいなーって。」
「……そう、なんだ。うん、似合ってる。」
笑って、少し照れくさそうにありがと、という佐藤と一緒に教室に向かった。
佐藤は「陸じゃないんだから髪は焦がさないよ……。」と言って笑っている。
教室に入ると……。
「デート、どうでしたか!?」
と(鼻息の荒い)馬場さんが出迎えてくれた。
僕は『デート』という言い方をした佐藤を睨んだ。
「それで! どうでしたか!? 手を繋ぐ!? キス!? それとも……お持ち帰りコース!?」
『お持ち帰りコース』の意味はよく分からないが……。
あえて言えば……。
「手を掴む、かな。」
「手を掴む!?」
正しくは手を掴んで逃げた。
馬場さんは僕の言葉を復唱し、なんだそれは、と言いたげだ。
他のクラスメイトはというと……。
「あれぇ~? 昨日何してたの~?」
「デートってやつ? 青春してるね~?」
と言ってニヤニヤしてるやつらもいるし……。
「手を掴むなんてまさかの展開!?」
「昨日の様子、詳しく聞かせてください!」
「もちろん! 全部!」
「ご安心を。包み隠すなんてことはしなくていいのです。」
「私たちはあなた方の秘密を話したりなんてしませんから。」
と妄想を膨らませる腐女子チーム。
一方クールの鈴木さんは「お帰り。」とだけ言う。
本好きの山本さんは「昨日の話、楽しそうだったね。」と普段言わない感想を言う。
この二人は窓側の席で本の感想を言い合ってる。
腐女子の妄想の餌食にされそう……と思っていたら佐藤が「あの二人は学校でも有名な(腐女子たちの)目の保養らしいよ。」と教えてくれた。