88 お口はチャック、手はお膝
「それは……。」
僕は二人の話を聞いて、苦笑いを浮かべていた。
河東藤、鬼桜、という名に心当たりはないが、先生が怒ったことに驚いている。
二人は『混ぜるな危険』だ。
それにしても……。
「落ちこぼれの鬼桜くん……。」
その言葉が、今も僕の中に残っている。
安藤さんは詳細までは覚えていないようだったけど、佐藤は一言一句覚えていた。
落ちこぼれ、とは……。
言い過ぎのような気もするが、佐藤が言いだしたことではないだろう。
なら誰だ?
だれが言い始めたんだ?
「ん……。」
そういえば、佐藤の名前は『淳』というのか。
佐藤淳。響きはいい。言いやすい。
『淳』という名前は意外と人気だ。
理由は漢字の意味。
”淳”は純粋さや人情の厚さ、素直さ、飾り気のないことを……だったと思う。
確かに人情は厚いかもしれない。
素直……素直かどうかはよく分からない。
飾り気か……これもよく分からない。
「何? 『落ちこぼれの鬼桜くん』が気になるの?」
安藤さんがそう言う。
佐藤は購買で買ったパンを食べている。
僕はお弁当だ。
「どういう意味なの?」
「言葉道理でしょ。というより、どうでもよくない?」
過去の事でいちいち騒ぎ立てられても……とつぶやく安藤さん。
予想外過ぎて思わず「えッ?」と返してしまう。
「えッ……。」
安藤さんは驚きの声を上げる。
場に沈黙が流れる。
そして僕が安藤さんに詳しく聞こうとしたとき……。
「安藤さッ」
「陸ー。このパン美味しーよ。」
佐藤が間に割って入ってきた。
そして安藤さんが佐藤のパンを奪う。
佐藤は怒ったが安藤さんに耳元で話しかけられていて二人で内緒話を始めてしまう。
「ちょっと! パン盗らないでよ! せっかく助けてあげたんだから!」(小声)
「頼んでないし。……感謝はしてるけど、お腹すいたんだよね~。このパンくれない?」(小声)
「やるわけないっだろッ。」(小声)
「それより鬼桜……いや、今は安藤。ヤバいんじゃない? こういう時、陸は急いで話変えないとずっと聞いてくるよ。」(小声)
真剣に告げる佐藤に驚きつつ、分かったと頷く。
「……何してるの? 二人とも。そんなに密談してたら、周りが騒ぐよ?」
顔立ちの整った二人が内緒話してたら一部の腐ってる女子からの悲鳴が上がるよ?
と言いたいところだが、口を塞いで声には出さない。
なんていうんだっけ……。そうだ、思い出した『お口チャック』だ。
頭、肩、膝、ポン。
作「何? なんだっけそれ。『手遊び歌』だっけ?」
ナ「年代や時代的に作者が一番詳しいんじゃ?」
白「そうなの?」
ナ「白銀も時代が違えば知ってそうだよね。」
白「確かに。子供とか好きだし。」