84 絶望への急降下
コンビニで買ったサンドイッチを食べながらニュースを見る。
ニュースでやっているのは、この前のゴールデンウィークで起きた誘拐事件だ。
サンドイッチをほおばり、美味いな~と思いながらぼんやりとテレビ画面を眺める。
『ゴールデンウィークに起きた、タレントの光流さんの誘拐事件ですが……』
……そうだ。葵の本名「光流」だった。
いつも葵って呼んでたから忘れてた……。
『加害者の、月影 藍華さん、31歳は、施設の子供の手術費が必要だった、と述べ――』
――ガタッ
勢いよく立ち上がると、椅子がガタッと音を立てた。
(……月影……藍華……? まさか……そんなはずはない……。)
いきなりだったので、空は驚き、陸は「優斗さん? 大丈夫ですか?」と心配の声を上げる。
心配してもらっているのに申し訳ないが、今は耳に入らない。正直言ってそれどころではないからだ。
(な……どうして……。父方の叔母さんの名じゃないか……!)
一瞬、同姓同名の可能性を考えた。
なぜなら――。
――今住んでいる家の家主も、同じ名前だからだ――
……なぜ……違う。今まで考えたことがなかった。……気づいていたのに気づかないふりをしていたのかもしれない……。
(よく考えれば、今住んでいる家の家主……叔母さんは、俺たちの大嫌いな父親よりも、年上だったな……。)
……もう「叔母さん」と呼ぶ必要はない。
「小母さん」に、格下げだ……!
(……嗚呼……。絶望への急降下が始まった……。)
……やっぱり、常に絶望した状態じゃないとだめなんだ……。
それが、俺の運命なのか……。
……「施設の子供の手術費が必要だった」が本当なら、家の家主より誘拐事件加害者の方がいい人かもしれないな……。
とか考える優斗くんであった……。(感覚の麻痺)
ナ「感覚麻痺させたのは誰なの?」
う……。