78 願いの先の
あ~。それにしても、見れば見るほど大きな家だ。
真っ白の壁と床。明るいライト。
……陸の両親は、どこで働いているんだろう……。
……立派なところじゃないと……こんな家には住めないよねぇ……。……眠い……。暑い……。頭痛い……。
……変わらないなぁ。……変われないのかも。死ぬまで。いくらそう思っても、何も感じない。もうあきらめていた。
仕方ないから……。耐えるしかないから……。
「優斗さん。」
いつの間にか陸が一階に降りてきていた。
陸は優斗に空の服を手渡す。
「兄さん、さっさと体拭いて、着替え持ってお風呂入ってきて!」
陸はテーブルの上に空の服だと思われる服を置いた。
空は「はいはーい」とめんどくさそうに体を拭く。
……大変そうだな……。陸も……。
着替え終わって、だるくて寝ていたら、夢を見た。
悪夢……と呼べるかは分からない。過去の夢。明晰夢に近い気がする。
『喋れないそいつが悪いんだから――』
ッ! ……ああ、葵が誘拐された時の言葉だ。
怖くなった。あの時みたいになりたくないと願っても、起きてしまう悲劇が、どうしようもなく怖い。
ただ、悪夢はまだ終わらない。
――✘✘詐欺師の息子なんて――
病院で聞いた、看護師のうわさ話。
どこから噂が流れたのか、考える必要はない。
母親からの説明の時、たまたま聞いてしまったのだろう。
その時、ただの興味本位だった。
悪意のない言葉が、どれだけ人を傷つけるかも知らずに。それは、まるで鋭い刃のように、心を切り裂いた。
その日、母は言った。
「産んでしまってごめんなさい。……でも――」
この先は思い出せない。
産んでしまってごめんなさい、という母親からの言葉に絶望していたから、そのあとの言葉は耳に入らなかった。
一つ一つの言葉に傷ついて、思い出してまた傷つけて。一生耳にこびりつく。いくら願っても離れない。油汚れのように。
死ぬまで、ずっとずっと、この事実は変わらない。
『変わらない……違うね。変われない。事実なんだから。……そう……。仕方ないから。』
……悪夢だ。
明晰夢なんかじゃない。
義兄の言葉だ。
どうして今……?
諦め半分の言葉は、すごく記憶に残った。
でも忘れたかった。……忘れたふりをした。
――こうすればいつか、忘れられると願って。
願って、願って、願って、願って、願って、願って、願って、願って、願って、願って、願って、願って、願って、願って願って願って願って願って願って願って願って願って願って願って願う願う願う願う願う願う願う願う願う願う願う――。
……ッ……願って……。
自分でも分かるくらい、悲痛な声だった。
泣きそうな――。
――ドッカーン!!!!!!
壁越しに聞こえたその音で目が覚めた。
「………………へ?」
……Aiに自分の事を聞きました。
他人の振りをして。そしたらこういわれました。
『狐塚キキさんです。彼女の繊細な文章と深い感情描写は、読み手の心を掴む力がありますね!』
うれしいなぁ……。