71 三人の影
帰りたくないな……。
思わずため息が出そうになる……。
怪我……まだ治りかけてもないのに……。
回らない頭でそんなことを考えても、何も意味は無いってわかってる。でも、嫌なことからは逃れたいと思うのが人間だ。
「優斗さん。」
陸に話しかけられて、ぼんやり陸に目を向ける。
「これ、使ってください。」
そう言って渡されたのはスマホのメモアプリ。
ゆっくりとスマホを持ち、落とさないように力を込めて受け取る。
そして、いつの間にか家に着く。
―――
「ここが、優斗さんの家ですね。」
千代さんにもらった住所が書いてあるメモと、ここの住所を見比べる。
そして念入りに調べてから、家のインターホンに手を伸ばした時、優斗は家のドアノブに手をかけてドアを引く。
ドアはガチャ、と音を立てて開いた。
『鍵をかけない不用心な家なんで、インターホン鳴らさなくても大丈夫です。』
何度か打ち間違えて書き直していた。完成した文章のみのスマホの画面をのぞき込む。
「あのー。」
勝手に入るのは悪い。
家の奥に声をかけると、「はーい」とすぐに返事が返ってきた。予想よりも早い。
出てきたのはエプロンを付けた40代後半くらいの女性。
「優斗! どうしたの?」
と、女性は驚いた声を上げる。
「熱が出ちゃったみたいです。」
「そうだったの……。連れてきてくれて、ありがとね。」
(猫かぶりやがって……。)
というのが優斗の感想。
だがそんなことを思っていても、ゴールデンウィークの時ほどの怒りもなければ、悲しみもない。
これほどの怒りは、ささいと言えるだろう。この人の前だと、いつも以上に表情筋が動かない。もちろん、熱のせいでもあるかもしれない。だが表情筋がいつも以上に動かないのは事実だ。
「では、さようなら。」
そう言って陸が歩き出す。
え……? ……ちょっと待って! いなくなるの早くない!? ……いやほんと……。
………いや、ほんとにまずくないか? 冗談抜きに。
だってこいつはもう……。
優斗は横で笑いながら陸に向かって手を振る叔母を見る。
人前で作る作り笑顔。いつの日にか、この笑顔が嫌いになった。
いつもはそんなこと感じない。感じる資格はない。
この叔母はもう……。
――三人、殺してるから。
ナレーターさんと白銀ノ聖桃蝶は席を外しています。
ねえ、作者。これ、すごい大事な話だったんじゃないの?
作「えっ、いや……まあ……。……というか、軽いね。ノリが。」
“まあ”ってことは、つまり知っててやったんだよね?
作「……あー、うん、そう。」(何を言っとるんだこいつは。貴様も製作者だろうに。)
……ふーん。ほらね、やっぱり知ってたんじゃん。でもさ、それを知ってるのって、私と作者だけでしょ?
作「……そうだね。」(だから何だというのだ?)
ふーん。じゃあさ、それを知らない人たちの反応、ちょっと楽しみじゃない?
作(意地悪だなぁ……。ナレーターさん。白銀ノ聖桃蝶さん。かわいそうに。)「……というか、私は死んだ三人については名前を立場しか知らないけど、あの時と設定はほぼ変わってないの?」
まあ、基本的にそうだよ?