61 消えた存在
存在が消えたとき、その欠片が語るものは何か。
微かな手がかりは、過去の記憶を呼び覚ます鍵となるのか。
静かに広がる闇の中に隠された真実に、そっと耳を傾けてみてほしい。
警察に保護された子供たちを見て葵は言った。
「一人足りないような気がするけど?」
と。
葵は続ける。
「え、だって、僕が連れてこられたときは、もうちょっと派手な髪色の子が居ましたよ?」
確かに、葵が連れてこられたときには、白髪緑メッシュの子供が居たのだ。
でも今はいない。
ここにいるのは葵が再考するために選ばれた仲の良い子供たちのようだ。
もちろん。葵の記憶にはなかった。思い出したとしてもそれはおそらく記憶の一部。
まだ、親近感や懐かしさを感じることはない。
その中の一人が小さく手を挙げる。
「あ、あの、園長先生が蹴っ飛ばされた時に、潰されてた子ですか?」
「そう!」
そう言ったらみんなが納得したような顔を見せたが、名前を知っているものは一人もいなかった。
園長先生がパトカーに乗って連行されている途中の事。
下を向きながらこんなことを考えていた。
(さて、今のうちに言葉を用意しておかないと。)
兄さんが来るかもしれないから。いや、きっとくる。
刑務所に入ったら、兄さんはどこからともなく私がいる牢屋の場所を調べて、認識阻害を使って会いに来るでしょう。
フッと笑う。
(なんていわれるのかしらね。さて、どうやって罪を軽くしようか。)
もともと、虐待をした理由は、恐怖心に起因していた。
その理由は置いておこう。今はそうじゃない。
(はぁ……。そう。千代、優斗。二人とも厄介そうね。相手が他人だったとしても、同情するわ。
でも……。)
顔をあげて天を仰ぐ。
(生きているなんて……。このことは、兄さんに話さないといけないわね。)
しばらく黙って考える。
(誘拐の理由を警察に話したら、罪は軽くなるか……?)
作「虐待をした理由、置いておかれちゃったんですけど?」
ああ、まあ大丈夫だよ。あとで分かるから。
ナ「ちなみにそれは、どうやって?」
それは、海斗がよこした弁護士に聞かれるんだよ。大丈夫だって。あとでちゃんと書くから。
白「それならいいけど……わたしも理由気になってるんだからね。」
はーい。