58 復讐と約束の果てに
句読点……間違えてるかもしれん。
彼女がその手に握るのは、かつて交わされた約束。
そして、その胸に燃えるのは消えぬ復讐の炎。 その二つが交差する瞬間、物語は新たな局面を迎える。
復讐と約束の果てに、何が待ち受けるのか——。
ねえねえ、キミならどうする?
復讐に生きると決めた彼女の覚悟を見て、約束の重さを知ったとき、あなたならその先に何を選ぶ? 彼女が背負うもの、その果てに待つもの。どうか、その目で確かめて。
「あんた何やってんの? バッカみたい。」
次に園長先生が放った言葉は千代に向けられたものだった。
「……何のこと?」
千代さんは園長先生を見降ろしていた。悲しそうに。
何が言いたいのかわかっていそうだった。
ただ、今なら聞かなかったことにして、許してあげる、とでも言いたげな顔。
その顔が、園長先生の癪に障ったのだろう。
「だから、喋れないそいつが悪いんだから、ほっとけばいいのに。」
園長先生が指す、喋れないそいつ、が誰を指すのか。もちろん、優斗さんだ。
「何も知らないから言える事でしょ? 無知って怖いわね。知らないうちに人を貶す。」
眉を下げて愚か者を見るように言い放つ千代さん。
さっきの言葉で園長先生の逆鱗に触れたのだろう。園長先生は包み隠そうともせず、本人の前で本人を貶す。
「じゃあ何? 言ってみたらどうなの? 言えないでしょ? 何もないからでしょ? 喋れない奴の代わりに喋っていい子ちゃんごっこ?」
疑問形なのに相手の返事を待とうともしない。
ただただ追い詰めようとしているようにしか見えない。
千代さんは一度、長いため息をついた。
僕には、そっちの方が大人の対応のように見えた。
千代さんは、一瞬無表情になってこたえた。
「何を言われても、私は私の責務を全うするだけ。約束したの。もういないあの人と。
何もないから? いいわ。教えてあげる。……感情を抑えるため。そう言えばわかる?
そうでもしないと今まで抑えてきた怒りが爆発して、殺してしまいそうだったから。あの人の事をだまし、自殺まで追い込んだアイツを。社会的に抹殺し、あの人と同じ死に方に至るまで追い詰めて殺してやるんだ!!
……私は、そのために生まれてきたの……。復讐が、私が生きる意味。」
千代さんは一瞬、目を閉じて深呼吸をした。そして静かに言葉を紡ぎ始めた。
千代さんは一瞬、怒りと憎悪、復讐の顔を見せた。
でも今は、疲れと、諦めが浮かんでいる、悲しい笑み。
僕は驚いた。今までの笑顔の裏に、そんな考えがあったなんて……。
でも、復讐が千代さんの生きる意味……? 僕は、そんなふうに思えない。
(嫌われてますな~。ここまで来ると同情するよ。✘✘✘✘✘。)
白髪緑メッシュの子供はまた一人、のんきにそんなことを考えていた。
その時、園長先生は固まっていた。
園長先生は千代の言葉に圧倒され、過去の記憶が頭をよぎった。
その表情には、恐怖と後悔が交錯していた。
先ほど見せた千代の無表情には、見覚えがあった。
その無表情……確かに似ている。あの時の、彼の顔に。
そしてフッっと笑う。
「そう……。相当嫌いなのね。」
「あたりまえ。」
園長先生の今の表情は、さっきまでの表情とは少し違った。
その顔を見て思い出す。
旅館であったあの人の事。
園長先生の髪色は、あの人と同じく黒。目の色も、同じような黒だった。
日本人形みたいだと思った。
でも、そう思った時、違和感があった。
ちがう。そう思ってしまった。あえて言うなら……。
「ブラックホール、亜種。」
その表現が案外、ストンと胸に降りてきた。
作「なんか、千代さんのセリフが筮さんも言いそうなセリフばっかり。」
……ちゃんと読んだ? 千代さんが「何もないから? いいわ。教えてあげる。」っていうところあるでしょ? 筮さんだったら「何もないから? そう。バカなあなたに教えてあげるわよ。」っていうから。
白「確かに違う。筮さんは千代さんより大人だ……。」
ナ「優雅っていうか……。」
作「ていうか、園長先生が固まっていた理由は何?」
うーん、思い出してたっていうか……。
ナ「ていうか、ブラックホール、亜種って……。」
白「どういう?」
ブラックホールのようには思えなかった。でも、ブラックホールみたいだと思った……みたいな?