43 海斗……(哀れみ)
早一ヶ月。
月日が経つのは早いもの。
ゴールデンウィークも相まって、遊園地は人が多いです。
一応みんな誘ったけど、優斗さんと千代さんは予定があってこれないみたい。
でも、
「意外だったな、葵が遊園地来たことないなんて。」
「来たことはあるよ。テレビの企画で。」
それはまあ……来たことは…あるか……。
プライベートで来たことないなら、カウントされないんじゃないかな?
「陸! ジェットコースター乗ろう!」
「うん!」
佐藤に誘われてジェットコースターに乗る。
ジェットコースターなんて久しぶりだなぁ……。
そう。久しぶりだったんです。
「酔った……。」
ジェットコースターで酔ってしまいました。
僕は遊園地の飲食店にある外の席に突っ伏す。
周りでは子供たちの笑い声や、親たちの話し声が聞こえている。
春の風は心地いいはずなのに、胃の不快感がそれをかき消していた。
うッ、吐きそう。
「陸、水買ってきたよ。大丈夫?」
「うん。ありがとう。」
佐藤に水を渡される。
どうして佐藤は酔わないのだ。
あんなに怖くて揺れるのに…!
※陸たちが乗ったのは絶叫コースター 佐藤は陸より怖さに慣れている。
「ん? あっれー? 陸じゃん! ヤッホー。」
後ろからの聞きなれた声。
声フェチ海斗だ。
「なんでここに海がいるのさ。」
「えー知りたいー?」
知りたくなくなってきた。
海斗はニヤニヤと笑って答えた。
「推しのライブだよ!」
あーあの、海がストーカーしてる相手の。
「ストーカーなんかしてないよ。(棒)」
「だからなんで心の声が読めるの?」
佐藤も海斗も、そんなにわかりやすいかなぁ?
「あ、そーだ陸。時間もあるし、コーヒーカップ乗ろうよ。」
「え、やだ。」
「即答!」
あの時、海斗が容赦なくカップを回し続けた結果、どこからか「バキッ」という音がして、カップが止まった。
その後、係員が駆け寄り、大騒ぎになったのを思い出す。
その時、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「キャー!! どろぼー!!」
「「!?」」
??? ……はッ! 一瞬思考停止してた。泥棒なんて、もっと別の場所でやった方がよくない?
その時、泥棒が持ち去ろうとしているカバンの中から、太陽の光を反射した刃物が見えた。
あれ……は、ナイフ?
「なにしてるんですか?」
そこには、泥棒の目の前に立ちふさがるように立っている葵がいた。
葵は、どうして物を盗むのか、理解できないような疑問の目で見ていた。
そして泥棒は、カバンを抱え込むように後ずさりしながら、葵の鋭い視線に戸惑いを見せていた。…ように見えた。
葵の声は穏やかだったが、その言葉には揺るぎない力が感じられた。
「なぜ物を盗むんですか?」その問いに、泥棒は言葉を詰まらせた。