36 きょうだい
僕は、佐藤の方に振り返る。
「佐藤、ここに来た理由はね、」
「『逃げるんじゃダメ。何を選択すればいいのか、よく考えて。
いい方にも悪い方にも行く。それが、人生。』……だったっけ。」
被せ気味に言った佐藤の顔は、下から、睨みつけるような無表情。
前も、何度か見たことがある佐藤の無表情。
でも、前は上から見下ろすような感じて、そこに何の感情が籠っているのか知らないけど、少なくとも、睨みはしていなかった。
「…ぇ? なんで知ってるの? そう、なぜか急に頭の中に浮かんだんだよね。」
そう言うと、睨むような無表情から険しい表情になった。
そこには、怒りと、悲しみが入り混じった、複雑な顔。
「……へー、そうなんだ。急に思い出したんだね。
こっちの事は何も思い出せないのに? あの方のことは思い出せるんだね。
まあそれはそうか。たとえ腐っても、血を分け合ったきょうだいだもんね。」
兄さんの事か?
佐藤は怒りを必死に抑えていた。
「ね、ねえ佐藤、どういう事? 分からないよ。」
佐藤は怒りを抑えきれず、感情のままに言葉を放つ。
「そっか、当主の言った通りだね。
…こっちだってショックだった。何度忘れたいと願ったものか。でも陸は、そんな苦労はいざ知らず、のほほんと生きてたんだね。」
のほほんって……この場合は悪口だよね。
「陸はいいよね。何もかも、忘れられてさ!!」
佐藤が放ったその一言。
でも、理解することはできなかった。
「へ? 忘れてる?」
何を?
信用できない。
本当だとしたら?
何を忘れてるというのだろう。
さっきの言葉は記憶の一部?
だとしたら誰が?
きょうだい?
兄さんの事?
だれ?
佐藤は知り合いだった?
信用しちゃいけない。
危ないかもしれない。
警戒しろ。
騙されるな。
ダメだ。
ダメだ。
ダメだ。
ダメだ。
ダメだ。ダメだ。
ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。
ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメッ――――――
――――――ッ……―――――
待て待て。頭の整理をしよう。
まず最初に、僕は頭の中に浮かんだ言葉に従って佐藤をここに連れてきた。
…あれ? この頭に浮かんだ言葉って、忘れてる記憶の断片だったりしない?
…一旦置いておこう。
次に、その頭に浮かんだ言葉の大体を佐藤が知っていて…。ん? 待てよ…?
僕の頭に浮かんだ言葉を知っている = この言葉を言った人物を知っている
ってことになる? いや…
頭に浮かんだ言葉を知っている = まだ覚えてる頃に佐藤に話した
って可能性もあるか…?
「うるさくないですか?」
何が? あっ、心の声?
「そう、陸はうるさいって感じないのかな?」
感じないよ? 陸であり陸じゃないからね。
「どういう事?」
……^_^(意味深な笑み)
「怖いよ!!」