35 心の声
気まずい。とても気まずい。
なぜなら光莉が居なくなった後一言もじゃべらずに時間だけが過ぎていく。
……このままでいいわけないよなぁ…。
『逃げるんじゃダメ。』
頭の中に、幼い子供の声が聞こえた。
『何を選択すればいいのか、よく考えて。
いい方にも悪い方にも行く。それが、人生。いやになっちゃうよね。』
まるで、いろいろなことを体験した、大人の言い方。
『それでもだめなら、あきらめなくちゃ……ダメなの。』
子供の言い方には、聞こえなかった。
突然の言葉。
だれの言葉かもわからない。なのに、なぜか心を揺さぶられる。
(誰だ?)
「……佐藤。」
佐藤に声をかけた。
よく考えたうえで、話しかけた。
なぜかは分からなかった。
これが佐藤じゃなかったら、話しかけなかったと思う。
佐藤は顔をあげる。
「あのさっ」
――ガラガラガラー
ドアが開いた。
タイミングが悪い。
そこに立っていたのは光莉。
佐藤は驚いて飛び跳ね、後ろに下がる。構えていたが、今はそんなことどうでもいい。
飛び跳ねた。そう飛び跳ねたのだ。
さっきまでの僕らの配置を考えてほしい。
僕も佐藤も正座していた。
そのため座ったまま飛び跳ねるという器用なことをしてくれた。
「あれ? どうしたの? 佐藤くん。運動神経良いんだね。」
首をかしげながら言う光莉。
佐藤は光莉を化け物を見るかのような目で見た。
(なんだこいつ。存在を認識するまで気配が感じられなかった。
気配察知を怠った? そんなはずは……。)
説明しよう。
佐藤は生まれが特殊な家のため、筮さんと同じように気配を感じ取ることができるのだ!
が、彼女は筮さんが電話相手を警戒して気配を感じ取りづらくしただけだ。
それに加え、佐藤の複雑な家庭事情と目の前にいじめていた陸がいることによって気配察知ができなかっただけなのだ。
「(゜.゜)………そうだな……。よしッ。」
光莉は手を叩いた。
「二人で外に行ってきなよ。」
「「……え??」」
光莉が佐藤のそばに行き、佐藤が入口の方に連れてこられる。
光莉は僕たちの背中を押す。
「いってらっしゃーい。」
「「……えぇ…?」」
こうして(強制的に)部屋を出て、初めて光莉に合った場所に向かう。
「……陸? ここに…入るの?」
佐藤は顔を青くして言う。
どうしたのだろう。大して危ないものはなかったが?
佐藤はなぜかここに来ることを渋っていた。
仕方がないので引っ張っていった。以外にも、振り払われることはなかった。
おはようございます、皆さま。
「なに? 急にかしこまっちゃって…。怖いよ?」
ひどッ! ただ、新しいクラスで疲れただけ。
「え、それで性格変わっちゃったの? ヤバいよ?」
五月蠅い奴がいるんですよ。
「五月蠅いって五月のハエみたいにうるさいから五月蠅いっていうんだよね。
それで?」
やっと名前が分かったんだ~。廊下で追いかけっこしてトイレに隠れるような人なんだよ。
遊んでる相手が異性だからトイレに入れないんだよね。
「イヤだわ~それ。」