31 世界の常識に影響を
済
「兄さんは、優斗さんと知り合いなの?」
優斗さんにも笑顔で話しかける兄さんに、思わずそう聞く。
「いや? 友達から噂程度に。」
「そう……。」
軽く返してくる兄に、期待なんかしなきゃよかったと後悔する。
「ところで、陸がそこの芸能人二人と仲良くしてるなんて知らなかったよ。どこで知り合ったの?」
兄さんが光莉たちを指差しそう言った。
光莉が「指を指すのは失礼です」と少しにらむ。
「旅館で……」
「リョカン? ……ああ、この前俺がパスした、陸の誕生パーティーね!? 誕生パーティーに旅館なんて、場所選びへたすぎない?」
そう言ってアハハと笑っている兄さんとは、別の日にコンビニでケーキ買って公園で食べました。
一応『仲良し』なんだよ?
その時、紗代さんが「パス……?」とつぶやいていた。信じられない……とでも言うように。
そしてその隣では、相変わらず優斗さんがボーっと一点を眺めていた。
「でも陸が芸能人と友達になるなんて思わなかったよ。」
(陸は目立ったりするの苦手だし。わざわざ目立つ人と絡むなんて……)
「は……?」
(それどういう意味? 今まで陽キャの友達が居なかったって事?)
二人の間にちょっとしたすれ違いと、気まずい空気が流れた。
その時、光莉がペットボトルのお茶に口を付けながら空を見つめ、
(私、この人苦手かも……)
と考えていた。
空はそれをなんとなく感じ取り、無意識に好印象を与えようと口を開いていた。
「旅館で会った時ってなんか面白いことあった? 運命的な出会いとか!」
(運命的なら聞いてみたいなぁ。面白そうだし。話のネタになるし)
「ンブッフォ!!」
空が何気ない質問をした瞬間、光莉がお茶を吹き出し、目の前に座っていた光流に勢いよくお茶がかかった。
光流の髪からお茶がポタ……ポタ……としたたり落ち、その場に重い沈黙が流れる。
「葵!? 大丈夫!?」
僕はハンカチを取り出し、葵に差し出す。
「姉さん……。」
「葵ごめん!!」
光莉もハンカチを取り出し、葵の髪を絞る。
そして僕らは兄さんに、「全部……説明してもらえるかな……?」と、ニッコニコの(目は笑っていない)笑みを向けられた。
そして今、正座させられた状態ですべてを話した。
兄さんは、世界の常識を覆す非・科学的な魔法のことを聞いた後も、「なんで仲間はずれにするの!?」というちょっと予想外な反応を見せた。こういうところは父さんに似てる。
・・・
まさか、この世に魔法をつかえる人間がいるだなんて……。
俺は、漫画とかアニメの中だけだと思っていた。顎に手を当て、少し考える。
「こっ……これで満足でしょうか……。」
光莉ちゃんが小刻みに震えながら聞いてくる。
正直俺ももう脳がパンク寸前だから、もうこれ以上何も聞きたくないよ。
「うん。これで本当に、全部、なんだよね?」
……言ってから気づいた。コレ、無意識にカマかけちゃったみたい。
すると光莉は黙った。まだあるみたいだ。
こんな世界の常識に影響を与えるような秘密をはなされたら、絡まないわけにもいかねぇなぁ……。
俺は、陸がこの目立つ人たちと絡んでいる理由を、不本意ながらに理解してしまった。




