30 あの日、病院であった少年
空(兄さん)視点です。
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今日もいつもどうり、友達とご飯を食べようと思って、カバンから弁当を出した。
いつも弟の陸が作ってくれていて、忙しそうなので他の家事を手伝おうとすると全力で止められる。
だが諦めずに挑戦すればいつかは手伝わせてもらえるはず。でも一ヶ月に一回は台所、もしくは洗濯機を爆発させる。
弁当を開けると、少し違和感があった。
数秒考えると、陸と入れ替わってしまったのではないか? という考えが浮かんできた。
窓の外を見ると、陸の姿が見えた、隣に誰かいるようだ、だが木が邪魔で見えない。
まあいいかと、よく考えずに陸の方へ向かった。
りくーと、名前を呼ぶ。
そうして陸に駆け寄る。隣にいる人には目もくれず。
友達を待たせていて焦っていたのだ。
「弁当、入れ替わって…た……よ………?」
そこまで言って気づいた。
あの日、ひき逃げに遭った家族と、壊れかけた陸を運んだ病院であった天茶色の少年、彼がここに座ってコンビニの新商品のパンをかじっていたからだった。
記憶の中で少年は、生まれつき重い病気にかかっているようだ。
そして手術するには、お金が足りないと、人見知りの少年の代わりに、少年の友達が「内緒」と言って教えてくれた。
「たしか、二年の光莉ちゃんと光流……」
光流ちゃんと言いかけて思った。
初めて光流を見たとき、女性として認識して、違和感を抱いた。
まあもし間違っていても、冗談だと笑い飛ばせばいいか。
「光流君! これからも弟と仲良くしてね!」
冗談交じりだったのに、「え…なんで…。」という意外な反応に驚きながらも会話を終わらせないようにして驚きを隠す。
「なんでって言われても……なんとなくだからなぁ~。」と、言う。
あながち間違いじゃない。
勘っていうか運っていうか…。
「で、君たちが山田姉妹、千代さんと紗代さん。」
「…! あたりです。」
「君たちは双子なのに全然似てないって、友達から聞いたんだよ~。」
俺は紗代と会話を始める。
山田姉妹も、最初聞いた時、何かありそうだな…。と思った。
でも他人事なので首を突っ込まないようにした。
どうせ幼いころの喧嘩引きずってるんだろ。
「で、君が山田姉妹のいとこの優斗!」
優斗の返事はない。
友達からトラウマでしゃべれなくなったと聞いたな…。
まあ、知らなくていいか。
それより優斗は覚えてないのか。下手に確認して墓穴を掘っても困る。
向こうから話題を振ってきたら適当に誤魔化すか。