29 兄、西村空の第六感
済
野球部にボールをぶつけられる事件があった日の昼……。
僕たちはもう一度集まり、皆で昼ご飯を食べることになった。
「いただきます」
僕は両手を合わせてそうつぶやいた後、家から持ってきたお弁当箱の蓋を開ける。
光莉たちは購買で買ってきたサンドイッチ。紗代さんはお弁当。優斗さんと千代さんはコンビニで適当に買ってきたと思われるパン。
この二人、昼はあまり食べない派なのだろうか。
「……あれっ?」
僕は、お弁当のふたを開けて気づいた。
兄さんのお弁当じゃね……? だってお肉が多くて僕のと比べ明らかに茶色いもん。
僕はとりあえずフリーズ。
兄の名は空。僕と同じくこの学校に通う高校一年生。
「すぅ………あぁー…………ん~?」
取り違えてる……。この現実が受け止めきれない……。
(せっかく光莉たちがご飯に誘ってくれたのに申し訳ないが、あまり目立ちたくないなぁ……)
と思い、僕が二人に謝って兄さんが今持ってるのと交換しに行くことにした。――が。
「りくー」
僕を呼ぶ男子生徒の声。その声を聞き、思わずビクッと肩が跳ねた。
なぜなら、その声の主は何を隠そう実の兄、西村空だ。
――チーン……
僕は天を仰いだ。チーン……という幻聴が聞こえてきているような……。
声的に近い。もう逃げられないな……。
「あ! 陸、ここに居たのか!」
嗚呼、見つかってしまった。あわよくば気づかずに通り過ぎてくれればよかったのに。
弁当片手に兄が駆け寄ってくる。
「弁当、入れ替わって、た……よ……?」
兄さんが光莉たちの方を見る。
正しくは光莉たちではなく優斗を見ているのだが、陸から見たら光莉たちを見てるようにしか見えない。
空はとりあえず笑ってあいさつをした。
「こんにちは! 陸の友達かな? いつも弟がお世話になってます。」
「え……あ、はい。こちらこそ(?)」
光莉は少し戸惑い、ぺこりと頭だけを下げる。
「たしか、二年の光莉ちゃんと光流……」
兄は葵を少しに見つめた後、
「君! 光流君、これからも弟と仲良くしてね!」と言った。
僕と光莉、光流君と呼ばれた当の葵、そして千代紗代の二人も、びっくりをして目を見開いた。
葵が「え……なんで……」とつぶやくと、兄さんは「えー……」と数秒考えた。
兄は感がいい。昔からそうだった。だから葵の骨格か何かを見て気づいたのかもしれないし、単純にふざけただけかもしれない。
「なんでって言われても……なんとなくだからなぁ~。」
そう言って兄さんは頬をかく。
感ではなく、運がいいのか?
僕は兄と生まれた時から一緒にいたけど、まさかここまでとは……!
兄さんは、紗代さんと千代さんの方を向く。
「で、君たちが山田姉妹、千代と紗代。」
「……っ! あたりです。」
「君たちは双子なのに全然似てないって、友達から聞いたんだよ~。」
紗代さんは兄さんと全く面識がなかったのか、驚いているようだった。まあ当たり前だけど。
兄さんも、父さんほどとは言わなくとも人層が広いからな。
優斗さん……は、さっきから……というか最初から、何もかも分からないけど、千代さんは紗代さんと兄さんの陽キャオーラにあてられ、心なしか影が薄くなっている気がした。
人層の広さって、その人の性格に直通しますよね……。
「……私は人層狭いから、陰キャだね」
そうですね(⌒∇⌒)そして、陽キャを恨むのは、陰キャの特権です。
「うん?」(なんか危うくなってきたぞ?)
じゃあ今から、陽キャへの呪詛を吐きまくろうか! おもに紗代と空に!
「すがすがしい笑み!」




