28 視線
済
「あぁーーーー」
やっと外の空気が吸えた……!
僕は、あのドアのない部屋の出口を優斗さんに聞き、ようやく部屋の外に出ることができた。
しかし優斗さんは、僕と一緒に外に出たはずなのに、僕が深呼吸してる間にどこかへ消えた。
精霊かなんかなのかな。神出鬼没すぎてちょっとニガテ……。
・・・五日後・・・
「中高一貫って……でかいよね」
僕は一人、学校から少し離れた所に立ち、ようやく大きな校舎を視界に収めて、ボーっと眺めていた。
ホント、いつ見ても大きな学校だな……。
学校に向かって歩いていく同じ制服を着た生徒達。
僕も前を向いて、人の流れに乗って学校に入る。
校庭の前を通ると、校庭には部活か何かで運動をしている生徒がいる。
その中の一人が、こっちに向かってボールを投げた。そして偶然、僕の前を歩いていた女子生徒に勢いよく当たった。
前を歩いていた女子生徒が勢いよく倒れ、僕は思わずその女子生徒に駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか!? ……あれっ?」
女子生徒が「いたた……」とつぶやきながらも顔をあげると、その生徒には見覚えがあった。
「……さ、紗代さん!?」
紗代さんはボールが当たった箇所を痛そうにさすりながら僕に笑って挨拶をした。
「や、やあ、また会ったね、少年。」
「紗代さん……も、ここの生徒ですか?」
僕の声が大きかったのか、ざわざわと騒ぎながら、野次馬の生徒たちが集まってきた。
紗代さんは僕の質問はフル無視で校庭に飛んできたボールを投げ返した。
野球部と思われる生徒が投げたボールと同じ距離を投げられる紗代さんに、僕は開いた口がふさがらなかった。
すみませんと叫び頭を下げる男子生徒に紗代さんは大きく手を振って、「気を付けろよー」と返していた。
すると、紗代さんの後ろにヌッと人影が現れる。
紗代さんのいとこだという、神出鬼没の優斗さんだ。隣に千代さんもいる。
「えっ……優斗さんと千代さんも、その制服……。この学校の生徒!?」
衝、撃……。
「そう、もうちょっと早く言えばよかったね~」
千代さんはそう言って苦笑いを浮かべる。
「千代さん。おはようございます。」
僕は二人に頭を下げる。一応、先輩だからだ。
「少年何組?」
パチンとウインクをしてそう聞いてくる紗代さんに、元気だなぁという感想が浮かんでくる。
さっきボールに打たれて倒れたとは思えないくらい元気だ。
「あ、A組です。」
「Aかー、ならひーちゃん達と教室近いね。」
「ひー……誰ですか?」
「光莉ちゃんと光流チャンの事☆」
へー……光莉たちもこの学校なのんだ~。もう驚けない。
嘘つくメリットは無いし、本当なんだろうけど。光流(葵)は男だけど、ちゃん付けで呼んでるんだ。
「ん? やっほーみんなー! 久しぶりー」
「陸ー。この学校なんだ?」
光莉と光流が駆け寄ってくる。
(あーあー来ちゃったよ有名人が。目立ちたくないのにさぁ)
と思っている自分がいるのがなんとなく嫌。
この後、いろいろと世間話をした後、遅刻しそうになり、一旦解散することになった。




