27 命乞い的な……ね☆
済
「っ……!??」
首? 首だけ? 首から上だけ壁から出てるの?
驚きでフリーズする僕を見て、首から上だけ出ている優斗さんは、不思議がっているのかそうじゃないのか、いつも通りの無表情でこちらを見つめてきた。
無表情怖い。
「ゆ、ゆうと……さん。……さっきまでの独り言は誰にも言わないでください!!」
半泣きの陸を前に優斗は心の中で「うるさ」とつぶやいていた。
「お願いします。言わないでください!」
全力で頼む陸。そして、「いつまで言い続けるつもりなんだろうね?」と、無に語り掛ける優斗。
優斗はその後も、陸の命乞い的な願いを右から左に聞き流し続けていた。
・・・
「優斗さんは、さっきまでどこに行ってたんですか?」
ようやく気持ちを切り替えた陸に対し、優斗は、
(別に大した用じゃないんだけどな……。)
と無表情のまま少し呆れた。
実際、優斗はトイレに行っていただけで、わざわざ言うようなことでもない。
「………………」
(伝えた方がいいのか? でもなんか生理的に嫌だな……)
しばらく無言が続いた後、陸はようやく気が付いた。
(優斗さん……喋れないんだった……!)
雷が落ちたような衝撃を食らい、陸はカタカタと小刻みに震える。
「す、すみません優斗さん。トラウマのせいで喋れなくなっていたというのに……」
(………トラウマ? トラウマってなんだ? ……あ、千代がそういうふうに誤魔化したんだっけ。トラウマ……)
優斗は、トラウマというその言葉で、ある時の光景を思い出した。
自分たちを守るべく散った、兄の死にざまを……。
「っ」
何度悔やんだだろう。
きっと、この気持ちは何年たっても消えてなくなることなどないだろう。
優斗は悲しげに目を伏せた。
……しかしその行動は、陸にとって、過去のトラウマを思い出してしまったのではないかという不安につながり――
――陸は、今本当に困っていた。
どうしよう……優斗さんが固まってしまった……!
マズい。トラウマのことで何か思い出してしまったのだろうか……。
「どうしようクマくん。」
陸はクマ置物の方を向いてしゃべった。
だが、そんな事クマに言ってもしょうがない。




