272 答え合わせ
母さんはあの後、本当に、電話を切ってしまった。
鏡は、本家についたらまず、着物に着替えて、それから紀章の説教を受けながら仕事を終わらせた。
そして今、日本酒を片手に頬杖をついて、冷たくなってきた夜の風を浴びていた。
「……………」
特に言葉は出て来なかった。まあ、一人だからしょうがない。
鏡は一人、水面に浮かぶ歪んだ月を見つめながら、過去の思い出に浸っていた。
・・・
桜井弥一……彼の話に移る前に、彼の双子の妹の話をしなくてはならない。
彼の双子の妹の名は、桜井弥月。顔立ちもなかなか綺麗だったが、彼女の兄や凪と比べるとどうしても少し劣った。
彼女は基本無口で、喋ってもおどおどした喋り方しかできないので友達もいなかった。
小学校に入学して、弥月を一目見たときに思ったことは、
(緑がかった、金髪? 珍しいな)
だった。
桜井兄妹は、緑がかった金髪に、綺麗な水色の目をしていた。
でも、その時は彼女の前髪が長くて、髪の色にしか目がいかなかった。
小学校生活、一から五年までは、桜井兄妹とかかわりを持つことはなかった。
小学校六年。最高学年になった時、桜井弥月と同じクラスになった。
桜井と木野。偶然か必然か、隣の席になった。
よくあるだろう? 同じクラスになって、隣の席の人と自己紹介するやつ。
その時に彼女はこう言った。
「あっ、あの……隣の、桜井っ、やづきです……」
弥月の前髪は相変わらず長くて、この時の俺はどうしてもその前髪に目が行った。
(染めてる……ってわけじゃないか)
ずっと黙っていたせいか、彼女は不安になって俯いてしまった。
「………初めまして。木野鏡です。桜井さん……って、聞いてる?」
彼女は恥ずかしさで一言もしゃべらなくなってしまった。
これにはさすがの俺も困った。今までの小学校生活、こんなに焦ったことはなかった。
それから数分、ワイワイと騒ぐ教室内で、やっと彼女のだんまりに気づいた担任は、俺が意地悪をしたのだと勘違いし、廊下に出され、散々説教をされた。
弥月の方は、自分が怒られているわけでもないのに、自分のせいで俺が怒られてしまったことが申し訳ないのが、涙目になって、そして泣き出した。
六年生にもなってこれはどうなんだと思ったが、担任もこういう児童なのだと割り切っており、俺も割り切るしかなかった。
その後、何をしても彼女が泣き止まないので、隣のクラスの彼女の兄、弥一が呼ばれた。
「大丈夫か?」
「うっ、うん」
「そうか、ならよかった」
弥月の顔を覗き込んで慰める弥一を見ながら、俺は呆れていた。
(妹と同じく兄も前髪が長いのか。まあ、兄貴の方がマシの長さか)
弥月泣き出し事件があったから、一学期初日から、俺の評価は最悪だった。
……………ダメだ!! 後書きネタが思いつかーーん!!
作「初っ端叫ばないで!」
ナ「じゃあ裏設定でも語ってみたら?」
んなもんない!!
ナ「……ああ、そ」(諦め)
白「あはは……でも、鏡の過去編、意外とギャグが少なそうだから、この後書きコーナーがいつもより明るくないと読者が疲れちゃうよ」
確かにそうかも……よし! じゃあナレちゃん、白銀! お前らは今から自分語り禁止! お前らの人生は重いからな!
ナ、白「えっ? ちょっ、ちょとま――」
問答無用! 後書き終わり!




