270 濡れたくない 章終わり
「……これ、どうします?」
ルシフローラは二人に聞いた。
数秒の話し合いの末、とりあえず家の前まで運ぶという決断になった。
しかし問題は、誰が運ぶか、だった。
一番力のあるレグルスは
「濡れたくない」
と言う。
ならばリゲルは、というと
「いや……この服乾きずらいので、濡れるのは困ります」
だそうだ。
それなら最後に残ったルシフローラは……?
「え? あ……ごめんなさい。私、力がないので持てません」
力がないのは仕方ない。ルシフローラの身長は現在150の前半であり、腕も体も細くひょろひょろ。
となると運ぶのは「濡れたくない」という理由で断った哀楽兄弟のどちらかになる。
「え……いやいや無理やて! オレ今から女の子と会う予定なんやけど」
「そうなんですね。で、なぜ会いに行くのです?」
「いやぁ、飽きたからそろそろ別れようかなと思いまして、別れ話をしに」
「最低ですね」
わざと強調して言うリゲルに、レグルスはカチンとくる。
「ちょっと。弟に言う言葉じゃないですよね?」
「そうでしょうか? 世の中にいる兄弟の喧嘩で『最低』という言葉くらいどこにでもありますよね?」
口喧嘩が始まりそうな二人の間に入ることも出来ずに、オロオロとしているルシフローラに、ある一人の男性が声をかけた。
「すみません。ちょっといいですか?」
三人が勢いよく振り返ると、男性は(おお、首がもげそうな勢い)と一歩あどずさった。
赤髪赤眼、童顔で頼りない顔をしているのは、言わずもがな、陸の父、鏡である。
鏡は傘もささずに走ってきたのか息が切れていて、全身びしょびしょだった。
いきなり声をかけられて、後ずさりたいのはこっちだと、ルシフローラは心の中でツッコミを入れる。
「……誰ですか?」
「ああ、ごめんなさい。今そこで寝てる少年って、なんだか私の息子に似ているような気がするのですが……どこに居ました?」
リゲルの質問に、アハハと苦笑いをしながら鏡は答え、とりあえず宙づりではなくなっている陸を指差した。
「屋根のう――」
「ここで寝てましたよ?」
レグルスの関西弁に被せるようにルシフローラが口を開いた。
まあまあその言い訳も苦しいが、馬鹿正直に「屋根の上です」と答えるよりはマシだろう。
「そ、そうですか……。まあ、とりあえずその子は受け取りますね」
そう言って陸を背負いあげる鏡を見て、三人は少しホッとしたのだった。
「ありがとうございました」
そう言って鏡は一度頭を下げ、陸を連れて去って行った。
ナ「濡れるのってそんな抵抗あるか?」
え……………ああ、ナレーターさんには抵抗ないのか。
白「私は抵抗しかないよ? だって乾かないもん。服が」
作「私も抵抗しかないよ? 汚いじゃん。雨水」
ナ「ええ? そうかなぁ。だから雨の日ってあらかじめ濡れてもいい服を着るもんじゃないの? 白い服とか着ると怒られるんだよね(笑)」
誰に?
ナ「その質問はキキのネタバレ防止精神には引っかからないのか?」
作「セーフなの?」
白「境界線が曖昧過ぎね」




