205 夢の狐
「はぁ……あの二人何やってたんだか」
空は湯舟に浸かった状態でため息をついた。
「なあ、優斗もそう思うだろ?」
空に問われた優斗は、シャワーの蛇口をひねって水を止めた。
いや、俺に問われても分かるわけないだろう。
「そうか、まあ、優斗に分かるわけないよな」
と、空との会話はなぜか成り立つ。
めんどくさ、そう思ってシャワーの蛇口をひねり、髪を流し始める。
そのことに気づいた空が優斗に話しかける。
「優斗、髪綺麗だよな。どこで洗ってんの?」
……きょうだいの家?
「へー、優斗きょうだいいるんだ。それにしても髪長いよね。伸ばしてんの?」
優斗はコクリと頷いて、一度目を伏せた。
約束したんだ。
「誰と?」
母さん。今入院中。
「そうなんだ……大変だね」
俺も昔、心臓が悪くて入院してて。でも、手術して外に出てきた。
「そうなの?」
優斗はシャワーの水を止めた。蛇口をひねった時にキュッと音がする。
その行動に、空は思わず苦笑いを浮かべた。
「そ、そうだ、七不思議のところに行った話をしようぜ。花子さん、どうだった?」
そうだな……いや、俺たちは女子トイレの中には入ってないから召喚の儀式は見てないぞ?
優斗の答えに空は興味を無くしたのか、あからさまに肩を落とした。
……いや? そういえば花子さんの能力で動けなくさせられた話があっ――
「マジで!?」
空は目を輝かせ、身を乗り出して優斗の話に興味を示した。
空に話をしてるうち、優斗は思い出したことがあった。
花子さんの能力で動けなくなった時、自分だけ二人の苦しがり方と違ったという事。
……千代と光莉は、体全体が上から押さえつけられているような感じだった。
しかし優斗はどうだろう。
上から押さえつけられるのではなく、手術をした心臓の部分だけが痛かった。
……?
「もしかしたら、古傷を開かせる呪いだったのか?」
だとしたら、千代たちはなんでああなんだ?
「うーん、普通の人間だから……とか?」
光莉は魔法が使えるんだぞ?
「そうだった」
余計、分からなくなった。
夜・・・
みんなが寝静まった後、陸は悪夢を見ていた。
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
森の中だ。僕は今、森の中を走る夢を見てる。
これのどこが『悪夢』なのかわからない。でも、なんとなく怖い。
枝が地面に落ちてたから飛んで避けて、木もサッと避ける。
右に行ったり、左に行ったり、上に飛んで木の上をぴょんぴょんと移動する。
「はっ、はぁ、はぁ……」
夢の中の僕は、息が切れる様子はない。ずっと走ってるのに。
ここはどこだ? 夢なのに随分リアルだ。もしかして――
「うわぁ!」
夢に出てきた者に驚いて悲鳴を上げてしまった。
狐だ。変な狐が出てきた。白い煙が上がっていた。あれは……?
「はぁ、はぁ、はっ、はぁ……」
陸は荒い呼吸を整える。
すると、隣で寝ていた佐藤がむくりと起き上がった。
「んー? どうしたの陸」
「あ、ああいや、ごめん。起こしちゃった? ……大丈夫。ちょっと怖い夢見ただけだから」
ちょっと笑ってそう言うと佐藤は眠そうな顔で「ふーん」と答えた。
「水でも飲んで、すぐ寝るよ。あはは……」
「うーん……」
佐藤はちょっと髪をいじってから「じゃあ」と言葉をつづけた。
「散歩、行く?」




