198 火傷 章終わり
「うわー! すごすごです!」
「す、すごすごって何? 桜さん。」
「すごいすごいの略です。」
僕は庭に出て手持ち花火に火をつける係をやっている。
……それと、桜さんが花火に触らないように監視も。
「はぁ……兄さんは凄いな。桜さん連れて散歩に出ていけるんだもん。」
「いや俺もここまでとは知らなかったけどね?」
ツッコミを入れてきた兄さんはあくまで笑顔だった。
目は……笑って……うーん。これは笑ってないなぁ……。
「わぁ! 花火の色が変わりました。」
桜さんは目を丸くしてから、周りをきょろきょろと見渡した。
「気づかれないように、そーっと……――アチッ。」
「あ! また触ったの桜さん! 色が変わっても触っちゃ駄目って何度言ったら――」
「ゲホッゲㇹ、煙が……ゲホッゲホッ!」
「あーもう……。」
「触ったのバレました……。」
「はぁー……。」
僕はもうため息しかつきようがなかった。
「桜さん、手、冷やすよ?」
「はーい……痛いですぅ……。」
桜さんは涙目になりながらもみじのように小さい手を触っていた。
僕は桜さんを連れて中に戻ると、中では筮さんと父さんがワインの飲んでいる。
「り、陸。どうしたの?」
中に入ると、父さんは丸くしてこっちを見ていた。
どうやら、外で花火を楽しんでると思ったらしい。
父さんの問いに、僕は眉を下げた。
「桜さんが花火に触って火傷しちゃったから。……それにしても、筮さんはワイン弱いんだね。」
「うん。らしいね……。好きなのはホントみたいだけど……。」
そう言って父さんは苦笑いを浮かべた。
「お酒には……弱いらしい。」
「ほえ……?」
父さんの見た先に、コップを両手で持った状態で頬を赤らめ、ぼんやりとした顔を浮かべていた。
僕は一瞬考えて、できる限り言葉を選び、筮さんに言った。
「筮さん、僕は、一人で飲み会に行くことをお勧めしません。」
「陸!?」
「必ず、本当に信用できる誰かと行ってください。できれば、同姓の方がいいかと……。」
これでも出来る限り、言葉は選んだ方だ。
父さんはあくびをし、ドアの方へと歩き出した。
「父さん? どこ行くの?」
「お風呂入る~。筮はソファーにでも寝かせといて。」
「あ、ちょっ――」
――バタン、と、扉が閉まる音がした。
伸ばした手を、自分の元に戻す。
この家に、父母の部屋はない。ベッドもない。なくても困らないほど、家に帰る回数が少ないのだ。
いや、違う。家には帰るし、電話もする。それでもベッドがないのは、止まる日が少ないからだ。
「陸? 何してるの?」
「うわっ――びっくりした~。佐藤じゃん。」
後ろから声をかけられ、勢いよく振り返ると、佐藤が立っていた。
「それにしても陸のお父さんお酒強いんだね。結構飲んでたみたいだけど。」
「うん……あっ! 桜さん!」
父さんと話してて忘れてた。
台所から水の音が聞こえてきて、そっちを見ると、桜さんが自分で手を冷やしていた。
思わずホッとする。桜さんもさすがに学んだみたいだ。
とその時――
――ピーンポーン
「? だれだろ。ハーイ。」
「!?」
僕は玄関に向かって歩き出した。
「……? 佐藤、どうしたの?」
「いや……別に……。」
僕は佐藤の異変に気付いて声をかけたが、佐藤はひどく、おびえているようだった。
ナ「誰が来たんだろう……っていうより、筮さんは酔っぱらって鏡さんは風呂。……ん? これって――」
はーいはいはいお黙りを。ナレちゃん? 余計なこと言ったらガムテープだよ?
ナ「ちょっと強引に黙らせようとして来てる。」
作「筮さん二日酔いに気を付けて……。」
ナ「いや気にするとこそこ?」
いいじゃないですか。これも個性。
白「そしてチャイムを鳴らした人物とは!」
次回、197話”チャイムを鳴らしたのは”。