196 花火と父
その次の日の日没後・・・
僕は、リビングのソファーに座って本を読んでいた。
――ピーンポーン
「? だれだろ。はーい。」
玄関の方に声をかけて、僕はソファーを立った。
玄関を開けて、チャイムを鳴らした人物を見る。
僕はその人たちを見て、目を見開いた。
―――
「筮さん!? みんなも! なんで?」
そこにいたのは、筮さんと、千代さん、紗代さん、優斗さん、佐藤、光莉と葵の七人。
しかも筮さんは、大き目の手持ち花火を持っている。
「……何ですか?」
筮さんに聞くと、手持ち花火をバンッと叩いて言った。
「もちろん、打ち上げ!」
「なんのですか?」
僕が即座に突っ込むと、筮さんはスンッと憐れむような顔をした。
「なんですか!? 勝手に来ておいて!?」
何を言っても無反応なのでほかのみんなを見ると、みんなも憐れむような顔をしていた。
すると、筮さんたちの後ろから声が聞こえてきた。
「あれ? 皆さん何してるんです?」
「筮さんだ。一昨日ぶりだっけ?」
みんなが振り返ると、そこには散歩帰りの桜さんと兄さんが立っていた。
僕はみんなの頭が邪魔で見えないので背伸びをして兄さんの姿をようやくとらえる。
「兄さん。お帰り。散歩どうだった?」
僕がそう聞くと、兄さんは深くため息をついた。
「それが大変だったよ。桜さん好奇心が強すぎて毛虫にまで触ろうとするし、何か気になる事があればすぐ駆けだすから車に轢かれそうになるし。仕方なく手を繋いでもすぐ振り払われちゃうから握力鍛えられた気がする。」
犬の散歩かよ、とつぶやいてもう一度ため息をついていた。
そんな兄さんに、僕は思わず苦笑いを浮かべ、お疲れ様、としか言いようがなかった。
そんなことは気にせずに、桜さんは筮さんに抱っこされ、楽しそうに笑っていた。
親子みたいだ。
………………。
……でも、筮さんは確か二十代って言ってたな。
二十代であれば、たとえ二十才だろうと二十一歳だろうと桜さんくらいの子供がいてもおかしくないな。法律的にはいける。
「陸く~ん? 何考えてるの~?」
チッ。バレた。
その時、また一つ、別の声が聞こえてきた。
「あの……うちの前で、何してるんですか。」
ここにいる誰の声でもなく、今ここに来たようだ。
僕はこの声に聞き覚えがあって、筮さんにどいてもらって声の主を見た。
「父さん。」
そこに立っていたのは、僕の父親、西村 鏡。
「メール見なかったみたいだね。今日帰るって送ったのに。」
父さんはにこりとほほ笑んで、スマホの画面を見せてきた。
「ご、ごめん……今、充電なくて。」
何だろう。いつもと変わらない声のトーン。いつもと同じ笑い方。
なのに――
――なんだか、怖い。
思わず一歩あとずさり、少し眉をひそめた。
鏡は皆を一通り見た後、「こんにちは」と言った。
誰も小さな声で「こんにちは」と返すこともできず、ただ眉をひそめている。
鏡は佐藤に向き直り、ほほ笑んで言った。
「こんにちは。」
そう言われて、佐藤は小さく「……どーも」と返した。
その時、筮は顎に手を当てて考え、思った。
(待って? 陸くんのお父さんって事は、陸くんのいとこである淳君の叔父って事にならない?)
……ならこの人が、鬼のトップ。全妖を取りまとめる、媿野家の――
――当主って事になるじゃない!
(……なんだか面白そう!)
筮は桜子同様、人一倍好奇心が旺盛だった。