194 冷たい命
江見さんって呼び方、気に入っててついつい「桜さん」を「江見さん」って書いちゃう。
「桜さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。」
僕はスーパーを出て、紫乃、と呼ばれていた少女に大根で殴られた桜さんの頭を触った。
「……あれ? 思い切り殴られてたように見えたから、たんこぶくらいできてると思ったんだけど、何もないな……。」
思わず首をかしげると、桜さんはああ、と言って説明してくれた。
「殴られる直前に糸で繭のようなものを作りました。伸縮性があり、鋭利な刃物でもなかなか切れません。」
なるほど、それで殴られた後に気絶もせずに立って大根を見下ろせていたのか。
「西村さん……。」
後ろから声をかけられて、僕は振り返る。
そこに立っていたのは、橘さんだ。
「その……ごめんね。親戚の子……助けられなくて。怪我とか、ない?」
橘さんは桜さんの前でしゃがんで、目線を合わせた。
僕はそれを見て、責任感が強いのかな? と思った。
「大丈夫だよ……タチバナ? さん。怪我、は……ないよね?」
「ありません。」
兄さんはヘラリと笑って橘さんに言った。
それでも橘さんの顔は暗いままだった。おそらく桜さんはそんな橘さんを見て、ふわり、と頭を撫でた。
橘さんは驚いて顔をあげた。
その目は、ほんの少し涙ぐんでいる。
桜さんは花が綻ぶような笑みを浮かべる。
「大丈夫。さくら、どこも痛くない。」
その言葉を聞いて、橘さんも安心したように少し笑った。
僕と兄さんも思わず微笑みを浮かべる。
ま、旅館で会ったお兄さんの正体は突き止められなかったけど、名前が分かったから良しとしよう。
その後・・・
「桜さん、子供の演技が上手ですね。」
あの時の笑顔を見て思ったんですけど、と付け加え、僕の手を握る桜さんを見る。
桜さんはフイッと向こうを向き、反対の手を繋ぐ兄さんに「肩車」とせがんだ。
橘さんはスマホを見て、もうこんな時間! と焦りだし、すぐに帰って行った。
「陸、お腹すいた。」
「私もお腹すきました。」
「僕もお腹すいたよ……。」
昼間の気温高すぎ……。
僕は頬を伝う汗を無意識にぬぐう。
「あっつい……。」
僕が不満の声を漏らすと、桜さんを肩車中の兄さんが、いいことを教えてくれた。
「陸、桜ちょっとだけ冷たいよ? 死者だから?」
「え?」
兄さんに言われて桜さんに手を伸ばすと、ホントに冷たかった。
本人は知らなかったらしい。
心なしか、目が点になってる気がした。
ナ「よく綻ぶって言葉知ってたね。」
おほめ頂きありがとうございます。本で読みました。
白「えぇ!? 何? なんで今日こんなにテンション低いの!? ていうか冒頭は物語に対するツッコミじゃないの!?」
作「その代わり今日は私たちのテンション高めでお送りいたします。」
ナ「いやーね、俺が生きていた時代はこんなに夏暑くなかった……。」
私が生きてる時代の夏はこんなもんだ。
白「確かに。私が生きてた時代はもっと涼しかった……。」
作「ああヤバイ。私たちのテンションまで下げられた……。」