193 大根武装の襲撃者
「………………とりあえず、場所を移しましょうか。」
お兄さんは微笑を浮かべてそう言った。
ここではまずいと、判断したんだろうか。
後ろで、桜さんと兄さんが警戒している目線を送っている。
そういえば、兄さんは会ったことなかったのか。
「兄さん、とりあえずこれ持って、先に帰――」
僕は振り返って、先に帰っていてほしいと伝えようとしたとき、お兄さんが逃げようとしていることに気づき、腕を掴みなおす。
「グッ……。」
お兄さんは手を振り払う事もせず、おとなしく掴まっていた。
なぜだ? どうして手を振り払わない。
「なんだかわかりませんが、お手伝いします!」
桜さんがお兄さんに飛びつき、ギュッと掴む。
その時僕は、遠くを歩く人の存在に気づいた。
あの人は確か……。
僕はお兄さんを掴む手を離し、すぐに桜さんの足を抱くように掴む。
それでずっと突っ立ってた兄さんがなんとなく状況を察し、僕に抱き着く。
「ねえ゙なん゙っか比率おかしくない……?」
お兄さんの声はキレ気味だ。
まるで大きなカブだ。
『大きなカブ』✕
『大きなお兄さん』〇
――それでも男は抜けません――
そして僕は遠くを歩く見覚えのある人影に声をかける。
「助けてー橘さん!! 親戚の子が誘拐されるーーー!!」
「はぁ!? いやこれどう考えても俺が捕獲されてる側――」
遠くを歩いていたのはクラスメイトの橘さん。
橘さんは僕の声を聞いて走ってくる。
「西村さん!? だいじょ……」
橘さんは一瞬固まる。
場に流れる沈黙を破ったのは、桜さんだ。
「タスケテー。さくら誘拐されるー。」(棒)
「は!? おいコラクソガキでたらめ言ってんじゃ――」
その時、お兄さんは周りの野次馬に気づいたのか、グッと言って口をつぐむ。
「子供を誘拐するなんて、ゆっ、ゆ……許されることでは……ぁ、ありません!」
橘さんはぶるぶるがくがくの足で仁王立ちをし、お兄さんを睨んでいた。
コケないか心配だなぁ……。
と、どうでもいいことを考えていた時、店員も集まってきて、お兄さんが桜さんを引きはがそうとしたとき――
「黎牙を離せ。ガキが。」
お兄さんの後ろに、少し低めの声を持つ人影が現れた。
「なッ――大根!?」
その人影はそのまま高く飛び、大根を剣のように構え、お兄さんを飛び越える。
少女の人影は勢いを落とすことなく桜さんを殴った。
子供を殴る事に、ためらいはないのか!?
桜さんは殴られた衝撃で、黎牙、と呼ばれたお兄さんを掴む手を離してしまった。
「紫乃!」
紫乃、と呼ばれた少女は静かに地面に着地し、黎牙の腕を掴んで走り出した。
少女は去り際にこちらに向かって叫んだ。
「大根! 後片付けお願いね!」
僕は数秒フリーズし、思わずん? と声を漏らした。
地面に視線を戻すと、そこにはボロボロに砕け散った大根と、大根を見下ろす桜さんが居た。
「………………では、僕たちもこの辺で――」
「待ちな。」
その場を離れようとして、肩をガシッとつかまれる。
ギギギ……と機械のような動きで振り返ると、レジのおばちゃんが立っていた。
その後無事、大根代を払わされましたとさ☆
(あの大根代……いつか絶対返してもらう!)
と、レシートを握りしめひそかに燃える陸であった。
ナ「うーん……お金払っていけば陸に恨まれることなかったのにねぇ……。」
そうそう。そういえば私今となりでテレビついてる。
作「……ん? だから何?」
でもそれを見てる人は一人もいない。
白「幽霊がつけたとでもいうの?」
いや? 親がつけたんだけど、けしもせずに出かけて行った。ちなみにさっきまで寝てたよその親。
白「何をしているの?」
ナ「いやその前にけせよテレビ。」
フッ……だるいのサ☆ ……イヤでも電気代爆上がりするからけしてきます。
ナ「お? おお……」