190 布団会議
「では、今日からお世話になります! 居候の、江見桜子です!」
「元気な挨拶どうも……。」
僕と兄さんは、家の玄関の前に立って江見さんを迎え入れた。
江見さんはしばらく黙った後、心配そうに眉を下げた。
「元気がないようですけど、やっぱり迷惑ですか……?」
「……? いや、迷惑じゃないけど……まあ、外暑いでしょ。今……の、気温は……?」
僕はスマホを取り出して気温を見るが、思わず二度見。
「34度……。」
「さんじゅうよん……?」
江見さんは不思議そうに言った。
怪異は暑さを感じないのか? いや、死者だから?
「部屋の中はエアコン付けてあるから。江見……さん。」
兄さんが玄関を指さして言う。
なぜか江見さんは目をぱちくりさせる。
「桜子で結構です。……名字、嫌いなんです。本当は。」
江見さ……桜子ちゃんは少し下を向く。
「どうして?」
「なんか……名前が二つあるみたいでいやなんです。」
「ふーん……。」
そうして家の中に入るなり、桜子さんははしゃぎだした。
リビング・・・
「うわぁー! 広いです!」
キッチン・・・
「おー。すごいです! ――わっ、火がつきました! 不思議です!」
僕からすれば、七不思議の方がよっぽど不思議なんだけどな……。
テレビの前・・・
「なんですかこの四角い箱! 中にいっぱい人がいます! どうなっているんでしょう……ハッ、まさか閉じ込められているのでは!? 私が助けてあげないと! すぐにでもこの箱を切り刻んで……。」
「桜子さん! 違う! 違うから! だから切らないでーーー!!!」
トイレ・・・
「――え? これがトイレ? ふざけてます? 落ちてしまいそうで怖いです。」
お風呂・・・
「なんですかこれ。」
「あっ、江見……桜子さんそれは――」
「ピャッ! 冷たい水が出ました! ちょっとだけ怖いです!」
二階の部屋・・・
「これが布団……? え、ここで寝てるんですか? ふかふか……。」
「桜子さん、それはベッドです。」
と、反応が見ていて楽しかった。
しかし、一つ問題が見つかった。
桜子さん……どこで寝るの?
僕か兄さんの部屋……にしようかなぁ……でも、そこしかないし……。
「と、いう事で、どうしようか決めようと思います。」
「ずいぶん深刻な顔してるなと思ったらそれか……。」
僕たちは、リビングのテーブルに座り、桜子さんの寝室を決めるための会議をしていた。
そういえば、桜子さんって呼びずらいな……。
「あ、あと、桜子さんって呼びずらいから、桜さんでいい?」
「私は構いませんよ。」
会議の出席者は、桜さん、兄さん、僕の三人。
一番最初にバッと手を挙げたのは桜さん。
「私の糸は、物を切れる鋭利なパターンもあれば、柔らかい鋭利ではないものもあります。それで布団を作るのはどうでしょう。」
「確かに……でも、どこに置くの?」
「………………。確かに……。」
神妙な顔持ちで頷いた後、数秒沈黙が流れる。
その中で兄さんだけが、ジト目で真面目に話をするこちらを見ていた。
「もう手っ取り早く、筮さんに相談すればいいんじゃない?」
兄さんの呆れ半分の提案に、悔しくも確かに、と思ってしまった。
顔に出ていたのか、兄さんの近くを飛ぶ桜さんの蝶も、ジト目をしている気がした。
ナ「合理的だけど、場所問題……。」
うーん。二人とも真面目だけど、真面目さゆえに空回りって事かな? そんな事より私今夏休み一日目です。
白「へー。いいなぁ。私たちも夏休みほしー。」(年中無休の職業)
作「私も夏休みだよ。一応小学生だからね。なるだけ宿題を残さないようにしたいなぁ。」
ナ「俺も夏休み欲しい……。」
そんなナレーターさんには山盛りに宿題を授けよう。
ナ「えっ、いや要らな……(子供用のドリルを真顔で渡されるナレータさん。ドリルが一……二)いや多いな!」
フッ……去年のさ……。
ナ「いらないって言ったよね!?」