188 紙に画かれた爆発の形
「私、学校の外に出れます!」
七不思議・七番の力で学校外に出れるようになった六番。
驚く皆の前で、混乱しつつも江見の扱いについて聞きた筮。
筮の問いに対し、「そっちで家に預かりでもすればいいんじゃないの?」と返す。
その後、とりあえず旅館に戻り、江見をどうするか。その会議が始まる――。
陸は、ふすまの前にボーっと立っていた。
このふすまの奥で、江見さんがぐっすり寝ている。
江見さんの寝顔……完全に子どもだったな。
だからなんだと、言われてしまいそうだ。
彩華さん……人間の形なのに、人間じゃなかった。江見さんもそう。
江見さんの無邪気な子供の笑顔の奥に、戦争という闇が眠ってる。
「……っ。」
この感情は――
「ばぁ。」
「ヒッ―――ムグッ。」
後ろからの声に驚いて、思わず悲鳴をあげそうになった時、優しく、口を塞がれた。
数秒して、手が離される。
「佐藤……? もう、体は大丈夫なの?」
振り返ると、そこに佐藤が立っていた。
佐藤は静かに微笑む。
「大丈夫だよ。江見さんにしっかり治してもらったから……。――眠ってた時、江見さんの生前の記憶を見てたんだ。それと、おそらくあの蝶の記憶も。……それは、ほんの一瞬だけだけど。」
僕は目をぱちくりさせた。驚いたんだ。そんなこともできるのかと。
佐藤はシーと言って、人差し指を立てた。
僕もつられて同じポーズをする。
「なんでかわからないけど、江見さんは昔から随分としっかりした性格だったらしい。今ほどじゃないにしろ――怖いくらいにね。」
そしてあの日――核爆弾が落とされる日に、病気の少年にあったんだ。
少年はなぜか、防空壕の中にいてね。
江見さんは持っていた毬で、一緒に遊んであげたみたい。
そしたら、その少年が持ってた紙が飛んで、江見さんが代わりに取りに行ったんだけど……。
「……だけど?」
「それが妙だったんだ。その紙に描かれた絵が、きのこのような形をしていたんだけど、雲のようにモクモクしていて……。」
その話を聞いて、僕は思わず眉を顰める。
「それって確か、核爆弾の……。」
煙の形じゃない?
佐藤は頷く。
佐藤曰く、少年はその時こう言っていたようだ。
『いいだろ? その絵――俺が描いたんだ。』
『……え?』
『この白髪……長生きの証。俺自身は病気のせいでもう長くないけどね。それでも――君の死を、見届けることはできるから。』
「そのあとすぐ――落とされたんだ。」
僕は動けなくなった。
まるで、仕組まれていたみたいじゃないか。
核爆弾が落とされた時その少年は――笑っていたんだろうか。
その時生まれた――様々な悲劇の中で。
自分一人のためだけに、若い命を踏みにじった……?
佐藤はうつむきがちの暗い顔をあげて、パッと微笑んだ。
「行こうか、陸。筮さんが呼んでるよ。」
ナ「え、重い……」
いまさら? えっいまさら? っていうかナレーターさんの人生もそれなりに重いよ?
白「いや……少年の笑み思い浮かべたら鳥肌立った」
作「江見さんは今ふすまの奥で寝てるんだよね?」
うん、そうだよ。ぐっすりスヤスヤとね。今までは五徹とか余裕だったんだけど、七番様の影響でしょうねぇ。
ナ「佐藤もすごいよね……。佐藤の抱える闇がデカすぎるよ……」
うーん。他の人も相当重いけどね?