176 四歳児の足 章終わり
「ほら葵、もうすぐ地上に出るよ。」
隣で階段を上る兄さんが、おんぶしている葵に声をかける。
「ん……。」
葵は目を覚まし、上から挿す光を見る。
と言っても、今は夜で、地下へと続く階段を明るさはほぼ変わらないけどね。
「江見さん? 大丈夫? 疲れた?」
「ん~……。」
筮さんと手を繋いでいる江見さんは下を向き、なんとも言えない声を出す。
いまさらだけど、江見さん可愛いな。
今までは七不思議として怖く見えてたけど、今こうやってみるとやっぱり子供で可愛い。
それにしても江見さんは、どういう感情であの声を出したのだろうか?
僕がそう疑問に思った瞬間、江見さんがパッと顔をあげ、階段を駆け上り、そのに出る。
「……久しぶりに外に出ました! わぁ、お外ってこんな感じでしたっけ。いつぶりでしょう……!」
案の定、江見さんは目を輝かせており、とても楽しそうだ。
「江見さん、こけないように気をつけ――」
――ドシャ
「……あーあ、言わんこっちゃない。」
兄さんが江見さんに声をかけた直後、江見さんは盛大にこけた。
その上の、蝶がせわしなく飛び回っている。心なしか、江見さんを心配しているようだ。
江見さんはバッと起き上がり、泣くかと思いきや泥のついた顔で言った。
「仕方ないですよね。この体は四歳児。とにかく動きづらいです。足も短い手も短い。いやになります。」
江見さんは無表情のようにも見えたが、きょとんとしている顔にも近い気がした。
感情が無いように見えて、そこにはちゃんと感情が存在し、彼女という存在がますますわからなくなる。
そんな時、筮さんが江見さんに言った。
「大丈夫? ほんとは痛いんじゃないの~? あれれ~涙目になってなぁ~い?」
意地悪そうに笑みを浮かべる筮さんの言葉を聞いてムッとした顔を浮かべる。
「なってませんし、私泣きません。だって……とにかく! 痛くないもん!」
フンッと涙目で頬を膨らませそっぽを向く江見さんの近くを飛び回る蝶。
やはり、あの蝶は江見さんを心配しているようにしか見えない。
その時、そっぽを向いていた江見さんが「ん?」と小さく声をあげた。
江見さんは校舎の方をジッと見つめ、目をぱちくりさせる。
「どうしたの江見ちゃん。」
「え、江見ちゃん!? ……いえ、何も。」
江見さんが見ている方向は、七不思議二番、トイレの花子さんの噂がある女子トイレの場所だった。
僕もその方向を一瞬見たが、女子トイレの中は異様に暗く、闇に呑まれるようにその場から一瞬、目が離せなくなる。
その女子トイレで、何かと目が合ったような気がした。
そしてぞわっと一瞬で全身に鳥肌が立った。
不気味で、すぐにその場から目をそらした。
ナ「鳥肌立った。」
短くとも恐ろしい背景を持っていそうな言葉ランキング一位!
ナ「え、そうなの? いや普通に怖いでしょ。それと江見さんが可愛すぎる。」
白「みんなからの江見ちゃんの呼び方が少しずつ変わってるよね。」
作「えみさん、から江見さん、に変わってるしね。それには何か意図があるの?」
あるよ。えみさん、は七不思議の噂で使われた怪異の名前。江見さん、は本人の本名。怪異自身の名前。それは、えみさんという名の怪異、ではなく、江見桜子という名のもとは人間だった死者、という認識に変わったから変えたんだよ。
ナ「重いな~。設定のすべてが重いんよ。もっと軽くできない?」
ナレーターさん一家が一番重いような気がするのは私だけ?
作「へー。この時点で結構重い家庭事情だけど、それ以上重いんだ……。これは物語の続きが気になるね。ナレーターさんも物語の登場人物だもんね。」
うん!
ナ「なんか俺が巨大ブーメラン食らってる……。」