173 異世界の所有権
そうして訪れた日没。
葵の力により地獄の鬼ごっこは終わり、紗代、筮も無事(?)元に戻る――。
「なんで……っ。」
七不思議・六番、えみさんもとい江見桜子はそうつぶやいた。
地面の土を握りしめ、悔し涙を流す。強く食いしばった歯が、ギリ……と音を立てていた。
江見はバッと顔をあげ、疑問を口にする。
「なんで……っ? なんでそんな、ことができるの? だって、だって……!」
江見は気持ちを落ち着けようと一度目をギュッとつむったが、それでも気持ちは収まらない。
(ここは私が作った、私の、私だけの、っ居場所なのに……!)
「だって……っここは、私の……ッ! 私が作った『異世界』なのに……!! なんで、時間を操れるの!? ここの所有権は、私が持っているはずなのに……なんで?」
江見は地面を何度も殴る。
手にじんわりと痛みが伝わり、振り下ろそうとした拳を緩める。
「……どうやったの?」
下を向いている江見さんの小さな声に気づき、葵も下を向く。
「わかんない……。」
「それは多分、あなたが言ってたように脳に直接干渉したんじゃないかしら。」
後ろから声が聞こえ振り返ると、そこには血が染みている服を着た筮さんが立っていた。
どうやら、ヒール、という名の回復魔法で直したらしい。
筮さんはふぅ、と息をつき、口を開く。
「脳に干渉して、世界の所有権を握るえみさんの力で日没までの時間を早めた。……普通は、できないのだけれどね……。」
最後の一言は小さくて聞き取れなかったが、顔が暗い、という事だけよく伝わった。
「ま、そんな事より。紗代ちゃんを、元に戻してもらえる? それと葵。体は大丈夫?」
葵は一瞬きょとんとした顔をした後に、不思議そうに「大丈夫です」とつぶやいた。
僕にも何も変わりないように見える。
筮さんは、何の心配をしているのだろう。
「さ、立って。こんなところで座り込んでたって何も変わらないわ。」
「……そうですね。」
筮さんに手を差し伸べられ、えみさんは立ち上がる。
二人は紗代さんがいる方向に歩き出した。僕と兄さんも、二人の後を追う。
その時――
「ゴホッ、ゴホッゴホッ!」
――ビチャ、ぼたぼたぼた
僕は振り返った。
後ろで、いやな音が聞こえたから。
「……葵?」
葵は口元を押さえて地面に座り込んでいた。
白い手から、真っ赤な血がしたたり落ちる。
その下にある地面には、赤い血が染みこんでいた。
鉄の匂いが、僕の鼻まで届いていた。
少し、頭がズキッと痛んだ。
「……だから――」
筮さんが、葵を見てそうつぶやいた。
「――魔法を使うなと言ったのに。」
白「葵君どうしちゃったの……?」
心配だね……といいたいところだけど、大丈夫だよ。ちょっと治るのに時間がかかるっつっても、二日間くらい安静にして、熱が出たときと同じように薬……回復魔法かけとけば治る。
ナ「回復魔法かけとけば治るって……無責任すぎるでしょ。」
そう?
作「そんな事いいから紗代さん復活させてあげなよ!」
確かに。今完全に存在を忘れられてる紗代さんです。