172 訪れた日没
その頃、七不思議六番に挑んだ組は・・・
どうしよう。筮さんが動けなくなってしまった。
紗代さんも。ついさっきやられた。
残り動けるのは葵、兄さん、僕の三人。本当に勝てるのか? そんな不安が浮き始めていた。
今、僕が考えている間にも、えみさんは筮さんに話しかけている。
「えーっと、あなたは少し離れたところでもなんか……火の玉? が出せそうなので、次不思議な術を使ったら殺します。何度も言いますけど、私じゃない七不思議だったら、今頃あなたは死んでいた。」
無表情のまま淡々と語るえみさんに対し、筮さんは苦痛に顔を歪めるだけだった。
えみさんはふぅ、と息を吐いて空を見上げる。
血の色に見えてしまう真っ赤な空は、いつも見ているはずなのに、不気味に思えた。
(日没まであと……何分なんでしょう。わかりません。)
えみさんは首を傾げた後に、首を横に振って葵が隠れている方向に歩き出す。
「そうでしたそうでした。逃げる側を捕まえなければならないのでした。見つけたのにこの人が邪魔してくるから……。」
ここからだとよく見えない! 遠すぎる。
ただ、えみさんが葵を捕まえようとしていることが分かる。
今えみさんがどんな顔をしているのか。罪悪感なのか、勝利に一歩近づくことへの喜びなのか。
そして、葵の表情も分からない。
それは、もちろん木に隠れているからってのもある。でも葵には『魔法』がある。
魔法が使える人間の考えることを知るなんて、僕にはまだ難しすぎる。
僕と兄さんは、ここから出ることができない。出たら攻撃の対象となり、殺されてしまう。
……そういえば……葵の魔法は、あまり見たことがないな。
いや、あまりじゃない。まったく見たことないかもしれない。
魔法の存在を知った時、浮いていたのは光莉。
旅館にあった地下室を作ったのは筮さん。
佐藤に魔法の話をした旅館のお風呂を魔法で作ったのは光莉。
葵が攫われた時、テレポートしたのは光莉だ。
葵は、本当に魔法が使えるのか?
「じゃあ、ゲームオーバーです。」
えみさんがそう言い、(おそらく)葵の影を踏もうとしたとき――。
――カチ……コチ…カチ、コチカチ、コチカチコチカチコチ
時計のような音が、聞こえ始めた。
その音はどんどん早くなり、空の色が変わる。
僕はつけていた腕時計を確認する。
なぜか鬼ごっこを始めた広場に来た時から、正常に動かなくなっていた時計の針が、音に合わせて進んでいた。
「ま、まさか……。」
えみさんが空を見上げ、ぽかんと口を開けていた。
「日没……!」
あっという間に日が沈んだ。
ゲームは終わりだ。影が無いから、鬼ごっこはできない。
えみさんは、その場にペタリと座り込んだ。
その時、
「どう?」
と声が聞こえ、えみさんが座る姿を目を凝らしてよーく見る。
するとそこに、葵が立っていた。
「ボクの魔法は。」
そう言った葵の姿は、初めて『少年』として、見ることができた。
「「葵!」」
僕と兄さんは葵に駆け寄った。
筮さんも「葵……!」と声を出していた。
だが、その時誰も気づかなかった。
その時の筮さんの表情は、勝利を逃したえみさんよりも――暗かった。
作「ッシャア―!! ナイス葵ー!!」
白「まあまあ落ち着いて。少年としての初登場シーンは私もそうなったけど、不穏な空気は終わらないよ」
ナ「どうして筮さんはあんな表情を……。あと、葵のあの魔法は、空間を操ってるの? それとも時間?」
それに関しては、次の話で教えてあげますよ。
ナ「それにしてもエミちゃん、こっぴどくやられちゃったね……あとちょっとだったのに。」
あはは……まあそれは、彼女も魔法の存在を知らなかったし、初めて見た魔法はファイアーボールだからね……。仕方ないよ。彼女に非はない。
作「勝者の顔ではない表情……本当に何があったんだろう。」
白「冷静になるの早くて怖い。確かに、えみさんよりも暗い顔ってのは気になるよね……。」