169 トイレ前の遭遇戦
一方その頃、佐藤たちは・・・
「いッ……イヤァアアあぁァァァァアッ!!!」
その悲鳴が聞こえ、佐藤はハッとする。
何があった? まさか、七不思議が出てきた?
頭の中でグルグルと考える。
優斗さんも窓側から移動してきたが、悲鳴が聞こえたのに女子トイレに入ることに抵抗があるらしく、トイレの前で立ち止まる。
「優斗さん! 緊急事態です! そんな事でためらってる暇は――」
ありません。そう言おうとしたとき、バリーンというガラスが割れる音と、バキッという何かが壊れる音。それと同時に、勢いよく何かがぶつかる音がした。
目の前を、二つの影が横切った。
優斗さんはその影を避けた。だが、珍しく表情を変えた。
「!?」
「な、何が飛んでき――」
飛んできたものを見る。
飛んできた『ソレ』は、廊下とトイレを仕切る、色付きガラスと木でできた壁を突き破って飛んできたようだ。
「ち……千代さん……光莉……?」
二人は壁に激突し、床に倒れた。
「う……。」
千代さんが苦しそうに起き上がる。
その時、トイレの方からジャラ……と音が聞こえてきた。何か、鎖を引きずるような音だ。
『返して……全部、返して!』
泣き叫ぶようにそう言いながら、花子さんが出てきた。
花子さんの顔は黒いモヤのようなものでおおわれており、顔を見ることはできないが、声からして泣いていることが分かる。
たとえその声が、壊れた機械のように欠陥的であっても。
佐藤は倒れている二人に駆け寄り、優斗に指示を出す。
「優斗さん……先輩! 千代先輩をお願いします! 俺は光莉さんを運ぶので!」
優斗は少し目を見開いたが、すぐに頷き千代を抱えた。
佐藤も同様に光莉を担ぎ、花子さんから逃げる。
(走りづらい……。)
優斗は眉を顰めつつも千代をおぶって佐藤を追う。
優斗の後ろを追うように飛ぶのは、筮さんの鳩。
鳩はぐったりしている千代と光莉を見て、パアァと光った。
「!?」
『……?』
いきなりの事で佐藤も花子さんも驚く。
そして鳩は光り終えた後、砂のように散った。
その様子を見届けた佐藤と優斗は同時に思う。
((なんだったんだ今の……。))
と。その時――
「……ん……。」
「んあ……?」
気絶していた二人が、目を覚ました。
飛んできた時の背中の傷も癒えたらしい。
二人が安心しかけたとき、七不思議・二番『花子さん』が攻撃を仕掛けに来た。
――ブォン!
息をよく風を切る音。それも、とても大きな音が聞こえてきた。
「……鎖だ。」
佐藤が、ぽつりとつぶやく。
暗闇の中から、鎖を振り回す花子さんが、ゆっくりと、歩いて来た。
なぜ鎖を、と佐藤は一瞬考え、思い出す。
強い怪異ほど、噂に逆らえなくなる、という法則を。
花子さんの噂は、縄で捕まえて首を絞める。ではなく、鎖で縛り上げ、首を締め上げる、に変わったのだ。
作「こちらでも命がけの鬼ごっこが始まりそう……。」
そうだね。ところで今筮さんは地獄のような痛みを感じているだろうね。
ナ「そっか。筮さんは今六番、えみさんとの鬼ごっこで動けなくなってる状態なのか。」
七不思議二番だからと言ってなめちゃいけない。番号関係なく、七不思議ってだけで強いんだから。
白「こういう時に祓い屋の『天照くん』が助けに来てくれたらなぁ……。」
そんなことしたら『石』もらえないでしょ!?
ナ「ところで、花子さんの『全部返して』ってどういう意味なんだろうな。もしかして、彼氏盗られたとか?」
……(呆れ)そうだとしても、ナレーターさんには関係ないでしょ? というか、どんだけ悲惨に何かを奪われていようが『花子さん』の事だったらどうでもいいもんね。ナレーターさん偏愛家だから。
ナ「それは偏見じゃない? そんなこと……。」