166 影と蝶と逃げる理由
「はぁ、はぁ……。」
逃げ始めて、一分ほど経ち、鬼が動き始めた。
僕は今、木の陰に隠れている。
本来、隠れるべきなのは体ではなく影なので、意味はない。
それに、鬼が多すぎる! そこらに徘徊している黒い影が鬼。這うように近づいてくる鬼が、とても不気味だ。あれ? 鬼ごっこってもっと平和なものじゃなかったっけ?
このままだと死ぬ危険が……。
僕は頬を伝う汗をぬぐい、呼吸を整える。
他のみんなはどちらに逃げたのだろう。無事ならいいが……。
「おーい。みんなー。」
えみさんの声だ。
僕は木の陰から声のした方を覗く。
するとその方向から、白い蝶が飛んできた。
一瞬油断したが、すぐに気づいてそこから逃げた。
「――ッ!!」
そして蝶は鬼の影へと姿を変え、僕の陰に――乗りそうになった。
あっぶな……。
「みぃーつけた。」
えみさんの声が聞こえ、思い出す。
忘れてた。えみさん!
僕は一気に警戒心を高めた。
だがえみさんはこちらに来るわけでもなく、僕に向かって手を伸ばした。それだけだった。――が。
突然えみさんが、何かを引っ張るような動作をし、こちらに飛んできた。
足は何かを蹴るようにこちらに向いてる。
何をする気なのか、なんて思う暇もなく、そのまま僕の前にある木に着地……というより激突? した。
蹴るようにこちらに向けられていた足は、木に激突するときにケガをしないようにだったのか?
いや、今はそんなことを考えている暇はない。恐怖で足が動かない。立ち上がれない。
心なしかすべての動きがゆっくりに見える。
えみさんが木を蹴って、僕の陰に着地しそうになる。ああ。このまま踏まれたら動けなくなるな……。だって、頭だから。
七不思議なんて無謀だったのかもしれない。林間学校でも、滅銀浪にすら手も足も出ず、逃げるだけだったのに――。
あきらめかけた、その時――
「――陸!」
その時、筮さんが走って来て、僕を担いで逃げた。
おかげで踏まれたのは髪だけで……いや、そのせいで髪が数本抜けた。そんな。恨み言なんて言っていられないけどね。助けてもらったんだから……。
「もう。なんで隠れるの? 言ったでしょ? これは、鬼ごっこだ、って。」
えみさんは残念そうに言って、頬を膨らませた。
「で、できるわけないでしょ!? チート! チートズルい!」
と、ここで抗議したのは紗代さんだ。
草むらの中から出てきていた。
当然居場所がばれたことで鬼にロックオンされる。
だが、先ほどの僕のように、何かを引っ張るように移動するのではなく――
――瞬間移動した。
恐らく背の高い雑草の上にある木の中に瞬間移動したのだろう。
一体あれは、どういう原理で成り立っているんだ?
作「怖すぎ~……。」
棒読み~……。
ナ「あれぇ!? どうしたの? どうしてそんなテンション低いの!?」
白「何? 何があったの?」
なんもないでーす。さあ、今日も後書きコーナー、やっていきましょー。
作「そうでーす。なんもありませーん。」
ナ「謎の日本語つたない外国人口調……。」