165 ~二回目のゼツリョウ招待券~
「ふっふっふー。私は七不思議の中でも二番目に強いの。一番強いのは七番目の七番様! あの方はとってもカッコよくて強いんです! ……私なんか、足元にも及ばないくらい。」
えみさんは白く光る蝶に囲まれてそう言った。最後、少しだけ悲しそうに。
彼女は、怒っているんだろうか。
「……でも、一番七番様と一緒にいるのは七不思議五番。春休み明けに屋上で話してたって二番が言ってたって蝶越しに聞いた……。」
唇を尖らせて言うその姿は、やっぱり子供にしか見えなくて。
頭がこんがらがる。
「七番様が一番強くて、逆に七不思議最弱なのが一番! 簡単でしょ?」
ニコニコと笑って言う姿に、やっぱり頭がこんがらがる。
筮さんも黙ってえみさんの言葉を聞いていた。
「……私は、鬼ごっこをして、貴方たちに勝ちます。……絶対に。だって、石を渡すわけにはいかないから。」
眉を下げて言う姿に少し、拍子抜けして、警戒心が完全に緩み切った、その時――
――場所が変わった。
筮さん視点――
広い……公園みたいな場所。でも遊具なんて一つもない。
伸びっぱなしの草と、木、草に覆われたベンチがあるだけ。
空は夕焼けに染まり、風は止まっている。
「じゃじゃーん! 見て見て、どう? 私はこんなに広い土地も作れるんだよ。」
つまり、ここは『異世界』……!
異世界はマズい。なぜなら、異世界の中ではその怪異が神のようなもの。操り人形にすることだって可能なのだから。
「ちょちょさんには、鬼ごっこの鬼になってもらいます!」
えみさんはそこらに飛ぶ蝶を指さす。
すると蝶は黒く染まり、人っぽい形になる。
人っぽい。そう、人っぽいだけ。
クリスマスの飾りに使うような形。
丸い頭が付き、その下には丸のみで構成された体がついている。顔のない人形のようなシルエット。
「今から始まる鬼ごっこのルールは簡単! 自分の影を踏まれないように逃げるだけ!」
満面の笑みで説明する彼女を見て、もっと説明してくれない? と心の中でキレる。
今戦っても石はもらえないので代わりの言葉を発する。
「ということは、影踏み鬼ごっこって事ね。制限時間は? こちら側の勝利条件等は?」
えみさんはきょとんとした顔をし、ああ、と思い出したような顔をした。
彼女は人差し指を立てて説明をする。
「制限時間は、日没まで。今は夕方。日が沈むまで15分ほど。勝利条件は制限時間一杯逃げる事。お天道様が居なくなってしまっては影が消えてしまうから。」
それと、そう言って彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「注意点は、影踏み鬼ごっこで踏まれてしまった部位は破損し、動かなくなる。ああ、安心して。それは脳に直接干渉してるから、破裂したりすることはないの。……血を見るのは好きじゃないから。だから、足や頭の影を踏まれると終わり。もちろん、日が沈むまでに一人でも生き残っていれば戻してあげる。」
弧を描く口が不気味で、鳥肌が立った。
えみさんはそうそう、忘れてた、と言い、言葉を続ける。
「トラウマは植え付けさせてもらっちゃいますね。だって私は一応怪異ですから。冷徹にならなければならないのです。もちろん、記憶は消して、一週間に一回くらい悪夢として思い出させるけど、朝起きたら忘れている、そんな状態。後遺症も残るよ。踏まれた部位が麻痺して、動かしづらくなったり、感覚が無くなったりする。頭が踏まれたら……痛覚がなくなったりするかな?」
えみさんはとぼけたように眉を下げる。
再度ニコッと微笑んで、右腕をバッと天に向ける。そういえば、ここに連れて来られた時から、空の雲は動いていなかった。
「影踏み鬼ごっこスタート!!! ……さあ逃げて。一分間だけ待ってあげる。」
オレンジ色の空。その空に浮かぶ雲が、動き出した。
作「そんなこと考えてないで逃げてよ筮さん!!」
おお。そうだね。そういえばさぁ……。
作「無視しないでよ。」
漢字五十問テスト受けたんだよね。
白「漢字……?」
ちょっと待って! 白銀スパルタだから白銀の授業は受けたくない!
作、ナ「それはマジでそう。」(スパルタ個別授業経験者)
白「で、点数は?」
まだテスト帰ってきてないけど……最低でも二点は取れる。
ナ「自信なさすぎッ!!」
作「私はテストとか受けないけど……まあ、私の場合は仕方ないか。一応小学生だけどね。」
白「じゃあ最高では何点なの?」
十二点。
作、ナ「いや点数低ッ!」
白「じゃあ三人まとめて漢字個別特別授業(五時間コース)にご招待ー!」
どこから取り出したのその木刀!