164 蝶の契約
「七不思議の……六番……!」
「はいっ!」
嬉しそうに返事をするえみさんの目は、右目が赤紫。だが、その目には白く蝶の形が入っており、不気味だった。
一方で左目は茶。髪と同じように茶色の目だった。
「ちょっと待って。」
そこで声をかけてきたのは、筮さんだ。
「あなた、子供……?」
「はい。でも中身はおばあちゃんです! ところであなた達こそ、こんなところまで来て何の用ですか?」
にこにこと笑いながら問う姿に、一瞬警戒心を緩める。
えみさんは、葵の近くにいた蝶を引き寄せ、頑張ったね~ここまで連れてきてくれてありがとう、ちょちょさんっと笑いかけた。やっぱりあの蝶は、筮さんの言った通り七不思議の使いだったのだ。
筮さんは後ろにいる兄さん、葵、紗代さんを一瞬見て、答えた。
「単刀直入に言えば、貴方が持つ七不思議の石、『夜明の境界』が欲しいの。」
(六番と二番の石、どちらか一つでも掛ければ、世界の境界を越えられない……!)
その言葉を聞いた瞬間、えみさんの目の色が変わった。
「夜明の境界……その石は、七番様から管理を任された物……。石の話となれば……話は変わりますよ。」
床にちょこんと正座し、手についている彼女の両手が光る。
どこからか風が吹き、彼女の髪がフワッと浮く。
彼女の後ろから、白く光る蝶が一匹、二匹――五匹、十二匹、三十七匹……と徐々に増えていき、無限に湧いて出る。
まるで、白い雪が逆流するように。
「私、暴力は好きじゃないから。」
そう言ってえみさんはスッと立ち上がる。
パンパンとスカートを叩き、埃を落とすような動きをする。
「ちょうど退屈してたところだし……でも、ちゃんと倒させてもらうね。七不思議として――そしてあくまで、遊び、暇つぶしとして。」
ねっ、と言ってにっこりとほほ笑む彼女は、やはり子供の見た目をする大人なのだと実感させた。
ナ「ねえ! 今の戦闘宣言、笑顔で言うの正気!?」
正気だし、怪異にそんなもの求めないでよ。
白「“退屈してたし”って! 倒す理由、軽すぎ問題!!」
作「てか、“暴力は好きじゃない”って言った直後に蝶が無限湧きしてるのホラー通り越して虫網案件なんよ……」
実を言うと、この後どういう方向にまげてやろうか迷ってる。
ナ「まげるな! それと、“中身はおばあちゃんです!”って爆弾セリフがサラッと投下されてたけど、あれ冷静にやばない?」
白「しかも笑顔のまま“ちゃんと倒させてもらうね”って言ってくるの、道徳心がポップコーンみたいに爆散したわ……」
どうか人道をお忘れなく……。
作「あと筮さん、急に“夜明の境界ください”って言いに行くの外交センスが拳。グイグイすぎて敵に回されるの秒だったよね」
最後の「ねっ?」の笑顔、あれたぶん百人中九十九人は防御不能。笑顔×殺意=怪異界最強ジャンル説あります。 でもさ……こんなキャラが敵で良かったのかな? いやもう、敵とか味方とかじゃなくて、“バケモン”なんだな……。