162 地下への正体
「……ん?」
何か聞こえたような気がして、僕は振り返った。
兄さんが心配して声をかけてきたが、何でもないと返す。実際、聞こえたような気がしただけで、何もなかったから。
「あ、いたいた。葵ー。」
「……あ、筮さん。」
筮さんが中庭の噴水の前に立っている葵に声をかけた。
葵はこちらに振り返り、周りが静かなせいかザッと砂の音が聞こえた。
「葵、何見てるんだ?」
兄さんが葵に歩み寄る。
葵は掌の上で飛ぶ蝶に向き直る。
その蝶に微笑みかける姿は、少年には見えず、可憐な少女のようだった。
絵画か? と不思議に思うくらい。
「この蝶、こっちの言葉を理解しているように動くんだよ。不思議だね。」
「見たことない模様の蝶ね。」
紗代さんが蝶をのぞき込む。
「確かに、見たことないわね。」
筮さんはその蝶を見て眉をひそめた。
その時、蝶は飛び立ち、噴水の近くにとまる。
「……? 何してるんでしょうか。」
「おそらく、七不思議の使いでしょうね。」
筮さんの言葉で、場の空気が少し変わる。
「な、七不思議は蝶も作れるの!?」
「紗代ちゃん静かに。近所の人に声が聞こえる。まあ……そういうわけでは、ないと思うわ。花子さんだって、そんなうわさは聞かなかったし。作れはするでしょうけどね。ずっと召喚してると疲れるのかしら?」
紗代さんは筮さんに言われて黙る。
僕たち五人に注目されている蝶は白く光り、ズズズズズ……と音を立てて噴水の下に地下へを続く階段が出てきた。
「どうやら、地下……が、あるみたいね。」
「どこまで続くんだこの階段……。」
僕はそうつぶやいた。
かれこれ十数分、この階段を降り続けている。
この階段は螺旋状……なのだろうか? 時折踊り場が現れ、降りる方向が変わる。
すると筮さんがあたりを見渡しながら言った。
「でもここ凄いわねー。どういう原理なのか知らないけど、噴水の下だから上から水が流れてきているなんてね。」
そう。この地下階段の壁には、上から流れてくる透明な水がある。
上から流れる水は冷たく、手は全く濡れていない。
「……あれ?」
僕は思わず声をあげた。
さっきから、どうせ手は濡れないのだから、と思い、壁に触れながら降りていた。
すると、ゴツゴツとした壁に、木材のようなものが触れた。
「……木の柱?」
古めの作りだな。
僕は手を離した。すると、その手は濡れていた。
不思議に思う。だが考えても仕方ない。相手は、人間ではないのだから。
一番下・・・
「ここが、一番下なのよね? もう階段は降りなくていいのよね?」
筮さんが疲れた様子でつぶやく。
筮さんが見ているのは、目の前にあるバカでかい扉。ゲームのラスボス……魔王がいる場所の前、中間地点みたいだ。
「ん……開かないよ。重すぎる。」
兄さんが扉を押してみる。
紗代さんが、押してダメなら引いてみなよ、という発言を聞き、兄さんがどうやって引けばいいのさ、と返す。
僕もその扉を見上げる。
確かに、兄さんの言う通りこの扉には凹凸は多いが、掴んで引く……ような場所はない。
するとその時、筮さんの近くにいた蝶が扉に近づく。
そして蝶はまた光り、扉がゴゴゴゴゴ……と音を立てて開いた。ちなみに扉は押し戸でも引き戸でもなく、ふすまなどの両開きだった。
いよいよ、七不思議の六番目『えみ』の登場だ。
ナ「きたきたきたーッ!! ついに七不思議六番の登場だ―ッ!!」
そうだね。
作「それにしてもあの蝶、本当になんなの? それに、『疲れるのかしら?』って……」
アハハ……まあ、さすが筮さんって感じ?
白「そんなことより! 七不思議の六番、楽しみじゃないの!?」
作、ナ「楽しみ~!」
私が作ったキャラだから、私は別に……しいて言えば、キャラの書き訳が大変そうってくらい?