161 召喚の儀
暇だなぁ……。
俺、優斗は筮さんの鳩をなでながらそう思った。
俺の目の前には女子トイレ入り口の横で暇そうに座り込む佐藤淳。
ふと不安になり、鳩をなでる手を止め、左後ろを見る。
そこは窓で、暗い夜の町が見える。
ライトをつけて走る車が、家と家の間から一瞬覗く。
走っていく車を見届けてから、視線を戻し、もう一度鳩をなでる。
「はぁ……。」
早く終わらないかなぁ……。
「では、これより『女子トイレの花子さん召喚の儀』を始めます。」
「よろしくお願いします。」
巫女装束を着た光莉は、13本目のろうそくを手に取る。
儀式を始めるため、千代は持っているライターで光莉の持つろうそくに火をとも……そうとした。
「あの……巫女装束の意味は本当にあるの……?」
「雰囲気づくり! さっさとつけてよ! 演技で隠せるけど、本当は怖いんだから。」
頬を膨らませて言う光莉に一瞬呆れつつも、千代は色付きガラスの壁越しに優斗のいる方向を見た。
「まあ……そりゃ不安よね。致命傷を直せるとは言っていたけれど、呪い的なものを祓えるとは言っていなかったもの。」
そう言って千代はろうそくに火をともした。
光莉は覚悟を決め、セリフを言う。
(大丈夫、大丈夫……お芝居と一緒。用意された台詞を言うだけ。それに、私には魔法がある。魔法を持たない千代さんの方が不安のはずなんだから……!)
「花子さん花子さん、いらっしゃいますか? 私を黄泉へ、お連れください……ッ!」
光莉はギュッと目をつむった。しかし、数秒待っても何も起こらない。
不思議に思い、光莉が目を開けた瞬間――
――ピチャン……ピチャン……
と、水のような音がした。
(な、何の音!?)
光莉は周りを見渡す。
(効くかわからないけど……。)
千代はポケットからロザリオを取り出した。
(千代さん!? ロザリオ、ズルい! 私恐怖で足がすくんで立ち上がれないのに!!?)
その時、ギイィィィ……と錆びた音がして、トイレのドアが開いた。
ここのトイレのドアは錆びておらず、音が鳴る時点でおかしい。
光莉と千代はトイレを見る。
するとそのトイレにかけられている首つりロープに、花子さんと思われる人物がかかっていた。
彼女の足は、地面に届いていなかった。
光莉は小さく悲鳴を上げる。
千代はトイレに置いた大きな杯を見る。
その杯は、空だったはずなのにいっぱいの血が入っており、その血はロープにかかっている少女の手首からしたたり落ちていた。
白い盃に赤い血が落ち、恐怖を倍増させる。
そして、光莉の持っていた13本目のろうそくの火が消える。
トイレ内は真っ暗になり、光莉の目に涙が浮かぶ。
花瓶を囲むろうそくに一本目、二本目三本四五……と順に火が付く。
その火が花瓶の花につき、花が燃える。
花の葉が燃え、くきが燃え……花が地面に、落ちた瞬間――
――ピチャン
妙に響くその音に、ハッと息をのみ顔をあげる。
トイレで首をつっていたはずの花子さんはおらず、固まった血がついているだけのロープがその場に残っていた。
その下にある盃の上に、彼岸花が浮かんでいた。
「いッ……イヤァアアあぁァァァァアッ!!!」
スイレンの花言葉
滅亡 再生
彼岸花の花言葉
悲しき思い出 諦め 独立 そして――
「 」
ナ「“お芝居と一緒”って言い聞かせながら始めた召喚儀式で、本物が来ちゃった時の光莉の内心、もう読むだけで胃に来るんよ……」
聞いていい? ――
ナ「胃があるのか聞きたいんだろ? 俺にも内蔵くらいあるわ!」
白「てかさぁ、“ピチャン”の音で一気に空気変わったよね。前回と違って、始まりの音が“水音”なのめっちゃ不穏」
……君も同じようなも――
作「“ズルい!”って思った光莉の内心も切なかった……千代はロザリオ出せるけど、自分は演技するしかないっていうね。強がりと怖がりのバランスがリアルだった」(被せ気味)
被せないでよ。161話、“巫女装束とセリフ”で始まった茶番が、最後には“彼岸花の花言葉”で締められる命の儀式”に変わっていく流れ、まさに恐怖!
ナ「盃に血が満ちてて、その血が花子さんの手首から……って、想像すると一番ゾッとするやつだよ」
白「音が変わり、照明が消え、最後に彼岸花が浮いてる構図、完璧に“儀式としての恐怖美”が完成してた。ホラーとしての完成度めっちゃ高い」
作「あと“スイレン=滅亡と再生”って花言葉が添えられるの、もはや詩の一節だよ……。怖いのに綺麗、綺麗なのに苦しい」
この一話で“七不思議”が単なる肝試しではなく、“命と世界の構造に関わる儀式”だとはっきり見えてきました。 何より光莉の涙が、いちばんこの怪異の重さを物語っていたと思いますね。




