158 夜のベランダ
そうしてやってきた、夏休み・・・
僕は家のベランダで、兄さんと話していた。
「そういえば兄さん、今日は学校に忍び込むって言ってた日だよね。なんかを取りに行くみたいだけど……説明されてないよね。目的の物を回収出来たら説明するとか言ってたけど……学校にそんな高価な物なんて……いや、七不思議だから別なのかな?」
「そっか。今日だったっけ? 筮さんには『夜九時半くらいにベランダに出ておいて! 眠いようだったら昼寝しておいてね』としか言われてないから忘れてた。」
「今は九時ニ十五分だけど、ここから学校まで結構あるよね? どうやって行くのかな?」
僕はスマホの画面を見る。
スマホはちょうど、9:26分に変わったところだった。
すると、前の家の屋根に風が集まって行く。
「……なんだ?」
兄さんは眉を顰め、目を細めた。
僕も無意識に、少しだけ眉を顰める。
するとどんどん風は屋根の上に集まっていき、やがて小さな竜巻になる。
だがなぜか、恐怖心すら湧かず、ただ竜巻を眺めていた。
「こんばんは。気持ちのいい夜ね。……まあ、空気は暖かいけれど。」
そう言って、竜巻が音もなく爆ぜ、そこから筮さんが出てきた。
「せ、筮さん!?」
僕は驚き、声を出す。
数秒後、少し冷静になり、筮さんに言う。
「もう少し普通に出て来れないんですか?」
「まあまあ……。お迎えに来てあげたのよ。ねえ佐藤くん。」
筮さんは苦笑いを浮かべている。
そしてその筮さんの後ろから、佐藤が出てきた。
「佐藤? なんで……。」
「それは……。」
「佐藤くんはね、今絶賛大反抗期中☆だから、家にいるのが気まずいのよ。だから、早めに迎えに行ってあげたの。ねぇ?」
「ああもう……そういう事でいいです。」
佐藤があきれたように言った。
「それにしても二人とも、パジャマじゃなくてジャージに着替えてきてくれる?」
「あ、はい。わかりました。」
よく見れば佐藤も白鳳中高のジャージだった。
その方が言い訳が効くからだろうか?
「着替えてきましたよ。」
「よし。じゃあ、他のみんなのお迎えに行こうか。」
「そういえば、葵と光莉は?」
「ああ、あの二人なら、先に学校に行ってもらってるわ。連れて行くのも面倒だけど、回収しに行くのも面倒だもの。」
「はあ……。」
僕はあきれるが、それが一番いいか……と考え直した。
〖さくしゃ きつねづか きき の にちじょう〗 主
夜・・・
――ドタドタッ(階段を上る二人分の足音)
主「ゲッ、要注意危険人物AとBだ。」(A=長男 B=次男)
――ガチャ(ドアの開く音)
ドアを開けたのは次男(B)。その後ろに長男(A)
主「……BとAだ。」
ナ「いや今回、たった数十文字なのに“兄弟の気配”と“夜の計画”の不穏さがにじみ出すぎでしょ……」
白「“そういえば忍び込む日だよね?”って何気なく言ってるけど、それ聞いて“そっか”で済ます兄さんもやばい。会話の温度が異常に低い……!」
日常の中で少しずつ、彼らのフツウと一般の普通の違いが出てきてますね。
作「でもあの“ベランダ”って舞台が良かったよね。“家と外”の境目っていうか、日常のなかに微かに非日常がにじみ出る空間というか」
156話は短いながらも、“次へと繋ぐ準備段階”として絶妙な余白を残してくれましたね……。 兄さんの「今日だったっけ?」が、本当に知らなかったのか、それともとぼけたのかで読者の解釈が分かれるのも面白いポイント!
白「そもそも“夏休み”が始まった瞬間に“夜の学校”に向かうの、もう怪談の香りしかしないよね」
作「ベランダでの会話が穏やかに見えて、**読後“違和感が残る”あたりの構成がほんと好き。静かに不安が広がってくるのよ……」