157 従兄とキノコと、偽りの平穏
佐藤と筮は、無言で山を下り、旅館に戻っていた。
すると筮が、いきなり何かに気づき、話だす。
「今思ったんだけど……。」
「うおビックリした……なんです?」
「分家筆頭って事は、本家の血筋と近いのよね?」
佐藤は黙る。
一瞬答えるか迷ったが、いまさら隠すことでもないだろうと思い、一度頷いて答える。
「そうですね。そういう事になります。実際、俺と陸は従兄の関係に当たりますので。」
「……はぁ!!? 嘘でしょ!?」
「嘘じゃないですね。」
筮は立ち止まって天を仰ぎ、深呼吸をする。
「だっ、大丈夫ですか?」
「……大丈夫に見える?」
「見えません。」
そう答えると筮は「大丈夫に見えてなくて良かったわ……」とつぶやいた。
「大丈夫に見えていれば耳鼻科をおすすめするところだったわ。」
数分後・・・旅館のロビーにて
「佐藤、一体どこ行ってたの?」
旅館に戻り、筮さんと別れ、陸と話をしていた。
「ん? ああ。前に、最近キノコに興味があるって話をしたら、森に生えてる珍しいキノコを見してくれたんだよ。」
笑顔でそう答えた。
陸は何の疑いもなくへえ意外、と言っている。
「キノコか……あ、そう言えば佐藤はキノコの里とたけのこの山、どっちが好き?」
「え? なんでまた急に……。」
「さっき、あの地下室から出た後、みんなでその話をしてたんだ。葵と兄さんと紗代さんはキノコ派。光と優斗さんと千代さんはたけのこ派だったよ。……僕? 僕は小枝が好きだからキノコもたけのこも好きじゃないよ? どっちもおいしいけどね。」
陸はフワッと笑って言った。
別に俺は、キノコも、たけのこも、小枝もあんまり好きじゃない。そもそも菓子自体食べないから。
「俺はそもそも甘いもの好きじゃないし……。」
「あ、そっか。ごめん……。」
眉を下げて謝る陸に、罪悪感がわいてくる。
「いや、別に……そんなに気にしてないから、大丈夫だよ。」
何も食べられないわけではないのだから。
「そうだ、陸。今度カラオケ行かない? 最近流行ってるアイドルのあの曲、実はプロ級にうまく歌える自信あるから、聞いてほしいんだ。」
ニヤリと笑ってそう言えば、陸も笑ってこう答えた。
「行く!」
ナ「えっ待って、“俺と陸は従兄です”って言った瞬間、人間関係の地盤がグラッてしたんだけど!?」
白「しかもこれまでのやりとりが全部“親族の間合い”ってわかってから読み返すと、あの距離感、妙にリアルだったな……ってなって悔しい」
作「そして筮さんが“耳鼻科おすすめするところだったわ”って返してくるの、ギャグの復帰速度がプロ級で笑うしかなかった」
157話、これ以上ないくらい“静かな章締め”だったのに、情報と違和感の密度がギュウギュウに詰まってて読み応え満点でした……!
ナ「“旅館に戻ったら何事もなかった風を装ってる会話”、いちばん怖いやつじゃん」
白「キノコの里 vs たけのこの山って話題に持ち込んで、“僕は小枝が好き”って答える陸ももうこっちが気を使っちゃうよ……」
作「そして“甘いものあんまり好きじゃない”って言いながら、ちゃんと空気を壊さないように返してる佐藤の“調整力”が泣けるんだよ……!」
ラストの「カラオケ行こう」「行く!」のやりとりは、一見なにげないのに、その背後に張り詰めた空気がうっすら残ってるのがたまらない。 この“日常の皮をかぶった異常の余韻”、章末にぴったりでしたねっ♡