155 祓い屋と見えない境界
佐藤はしばらく黙った。
そして、重い口を開く。
「あの金髪の方はおそらく、『祓い屋』の方です。」
佐藤は下を向く。
「祓い屋?」
「はい。」
そのまま頷き、祓い屋の説明を始めた。
「祓い屋とは、鬼などを含む妖、七不思議や都市伝説などの怪異などの人間を襲う者を祓う神職です。強く、人体に影響を及ぼした、あるいは人を襲う者は強制的に祓い、人体に害をなさないそこらの低級霊は成仏させる。それが彼らの仕事です。」
一度息継ぎをし、言葉を続ける。
「彼……いえ、彼らは今回、滅銀浪を祓いに来ていたのでしょうが、その先で偶然都市伝説に出会い、滅銀浪というザコより、危険性の高い都市伝説に攻撃をしたのでしょう。」
筮さんは眉を顰め、口をはさんだ。
「でも、あの人はただの切り裂き魔かもしれないでしょ? 銃刀法違反だって――」
「あの刀は、怪異などを祓う事の出来る特別性です。でなければ、異世界に入る事は不可能でしょう? 一般人は基本的に、異世界に入ることはできませんから。」
「でも……神谷先生は?」
「人間ではないからでしょう。おそらく、何らかの妖……。」
思い出してほしい。
神谷先生は、人外はいるか? と聞かれた時、いる、と答えたことを。
「そのことについては、鬼の中でも偉い立場の人物に探ってもらっています。そして、あのクラスには少なくとも、俺たち鬼以外で三人か四人、妖が居ます。」
「どうしてわかるの?」
「祓い屋対策に特別の香水をつけて妖の気配を隠す者もまれに居ます。その中の一人は、とても……人間に紛れるのが上手いみたいですね。」
「な、なるほど……。でもだったらどうして、あの人は怪異を刈らなかったの?」
「……たぶんあの方は、怪異を見ることはできても、妖を見つけることは難しいのでしょう。」
何らかの理由があって。
その理由のせいで、怪異が見えない『輝』しか彼がやった儀式の場所から異世界に入ってこれなかったんだろうな。
「じゃ、じゃあその妖の種類は……いえ、なんであの人が祓い屋と決めつけられるの?」
佐藤にとって当たり前のことすぎて、目をぱちくりさせてしまう。
「極めつけは名前です。天照、とは祓い屋家のトップ。妖で言う鬼などの天鬼龍盟のようなものです。ついでに輝さんに『若』と呼ばれていたという事は、それなりに偉めの立場なのでしょうね。……それなのに、妖と人間の区別がつかないという事は……。」
随分、肩身が狭いだろうな。
一瞬、自分と比べる。それでもすぐに、その思考を打ち消した。
だからそんなに上の立場なのに、護衛も居らず、怪異の見えない彼に軽口をたたかれてしまうのか。いや、彼とは本当に仲がいいだけなのか。
それ以前に、表向きには存在しないことになっている組織だ。
どちらにせよ、妖が気にすることではない。
妖にとって、祓い屋は天敵なのだから。
ナ「えっ待って……天照って、祓い屋家のトップ!? ……急に世界の首根っこつかまれた感じするんだけど……」
白「それ、物語開始からいたんだけど!? “切り裂き魔疑惑の金髪”が、まさかの祓い屋最高幹部とか誰が予想したの……」
作「それ分かる。しかも“輝に軽口を叩かれてたけど、実は身分差エグい”っていう、人間関係の反転トリック……あまりにエモくて胃がふるえた」
今すぐ医者に――
作「見せないよ?」
155話、情報量は静か。でもそのぶん、世界設定の奥行きがグググッと深く沈んでいく感覚が最高でした……! “祓い屋”という存在が登場したことで、「異世界・妖・怪異・都市伝説」それぞれのラインがようやく交差してきた……まさにターニングポイント!
白「自画自賛?」
ナ「『異世界に入れる人間は限られてる』『神谷先生はおそらく妖』って流れも、過去回を思い返して震える構成だったよね」
白「“香水で気配を消してる”って設定も、今後絶対使われる伏線だし……つまり、ここからは誰が“敵”かも分からないモード突入だと……」
意外と味方かと……。
作「“鬼”“祓い屋”“妖”の三角関係がだんだん明かされてきてるけど、でもまだ、“彼はなぜ逃げられたのか”には触れてないのが逆に怖い」
佐藤の語りは淡々としているけれど、“淡々=諦めてる”ようにも見えるのがまた切なくて引き込まれました……。