152 夏休み開幕
「やっと、やっとだ……。」
馬場さんがそう教室でつぶやく。
「やっと、夏休み、開幕~!!」
「あはは……今日が最終日だっけ……?」
僕は馬場さんにツッコミを入れた。
「暑い、暑すぎるって。こんな状況で夏休み楽しめないよ。」
後ろにいる安藤さんが下敷きで自分を仰ぎながら言う。
「馬場さんは、夏休み何するつもりなの?」
「いい質問だ佐藤くん! 君には素質がある。」
「あ、知ってます。」
馬場さんが悲劇のヒロインのようなポーズを取り答える。
「それはもちろん、クーラーの効いた部屋で漫画を読みまくる!」
「あ、そうですか。」
佐藤は聞いておいた割にサラッと流す。
「それと、漫画も読むけど、永来と博物館や水族館に行ったり、もちろん宿題もやるけど、おじいちゃんおばあちゃんの家に遊びに行ったり、あと……漣と一緒に料理の勉強。」
馬場さんが目をそらす。
永来君と博物館に行くと言っていた時は笑顔だったのに……。
兄さんほどじゃないけど、料理はへたって鈴木さんが言ってたなぁ。兄さんにはレンジでチンさせることすら怖い。
馬場さんもめんどくさいんだろうなぁ。
僕は鈴木さんの方を見る。
鈴木さんの隣に席に、山本さんの姿もある。
林間学校で山本さんは、ずっと馬場さんたちの手伝いをしていたらしい。
だからあの滅銀浪とか言う化け物じゃなかったんだ。よかったー。
放課後 旅館
「夏休み……。」
旅館では、佐藤がそうつぶやいていた。
「佐藤? どうしたの? ……あ、もしかして、義妹の事?」
そう聞くと、佐藤は一瞬目を伏せたが、すぐに笑顔になって言った。
「そりゃ、心配してないって言ったらウソになるけど、いざとなったら陸が助けてくれるんだもんね?」
意地悪そうな笑みだ。
まあ嘘ではないので頷いた。
「あー二人とも、ここにいたの? 筮さんが集合かけてるよ。」
「「紗代さん。」」
「二人はどんどん双子みたいになってきたね。外見も赤髪、赤目、ショタ顔、身長は……。」
「身長に関しては、ほとんど同じだけど、佐藤の方が数センチ高いようで……。」
僕は苦笑いを浮かべる。
どうやら、佐藤は秋生まれで、そのことを聞いた時、僕の方が早く生まれているのに、と思ったことも事実なんだよなぁ……。
「それで? 筮さんは俺らに何の用ですか?」
「知らないよぉ。それを今から説明されるんでしょ?」
「それもそうか。」
佐藤と紗代さんの会話を見ながらふと思った。
そう言えば紗代さんって、優斗さん、千代さん、葵、光莉、佐藤の中でも一番かかわりがないな……と。
兄さんはまず家族だから論外だけど……。
優斗さんはたまに家にとまるから好き嫌いも知ってる……誕生日は知らないな。
光莉はまあまあ話す。暇なときにちょっとだけ魔法も見せてもらったりするし。
葵? 葵は……まあまあ、話すし……あ、誕生日は光莉と一緒だから知ってる。
千代さんは……。
……そういえば、千代さんも紗代さんと一緒であんまり知らないな。
ナ「夏休み開幕ーー!! ってテンション上げたそばから、陸と安藤の温度が冷蔵庫並みに低くて泣いた……」
血も涙もないくせに。(暗い顔で睨む)
白「ていうか漣と料理の勉強って言った時の馬場さん、急に目そらしたのバレてるからね? そんなに料理が嫌なのか?」
馬場さんは継続して何かをするのが苦手です。
作「あと『山本さん=怪異じゃなかった』判定されたのに本人そこにいるの、あれ明らかに信じて安心してる空間に逆に不安出てくるやつ」
あ、そこは安心して大丈夫だよ? どんだけ疑うの?
ナ「旅館パートもほのぼのかと思ったら『義妹』の単語が出た瞬間に空気変わったし!?」
彼女には、空気を(強制的に)変える力がある。
白「陸の『逃げたいときは逃げていい』が前回から続いてるの、もはや心の避難訓練じゃん。尊い」
作「そして紗代さんが『双子みたいだね』って言ったときの陸の“そういえばあんまり話してないな……”の温度差、情緒クラッシュ現象起きてたよ」
そう言われて思ったけど、陸は一歩引いた目線で物事を見ていそうだね。他人事みたい……。ねぇ、ナレーターさんっ。(ニヤリ)
ナ「ぇ………………な、なんで俺に話題振るの!? 突っ込んでくれると思った!?」