147 風雅
「――ッ!」
佐藤は、自分の頭めがけて飛ばされた刀を、後ろにのけぞって避けた。
(あッぶな……。)
しかし、陸は刀を避けることができないので、佐藤が陸を守る。
佐藤の後ろにのけぞったスピードを落とさずに、地面に手をつき、足で刀を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた刀はくるくると回り、少し離れたところの地面に刺さる。
佐藤は逆立ち――ではなくブリッジのような体勢になり、そのまま立ち上がる。
その体勢のまま横目で刀を確認する。
安全を確認し、刀が飛んできた林から一歩下がる。
「何してんの、若。」
林の方からの声は、どこか怒っているようだった。
若。その呼び方に反応したのは天照だった。
「輝!」
「はいはい。若のお目付け役の、風雅輝お兄さんですよ~っと。」
林の中から、天照に輝、と呼ばれた青年が出てきた。
年齢は……天照と同じ、高校くらいだろうか。
天照は輝お兄さん、という言葉を聞いて、「お兄さんとかキモイ」と冷たく言い放った。
輝さんは林の中から頭の後ろに手をやりながらダルそうに出てきていた。
「今、オレは怒ってる。なぜかわかるか? 若。」
「……俺が、勝手に儀式を行ったから。でも――。」
「でもじゃない。そのせいで俺以外誰もここに加勢にこれねえんだよ。」
「うっ……でも……暇だったから……。」
輝さんは首をかしげて睨みつけるように天照を見た。
さっきまで忘れられていた男は、攻撃をやめた天照に混乱を隠せない。
「あのー……。」
そこに声をかけたのは、橘さんだ。
「誰です? あなた。というか、帰り道は……いえ、そこの銃刀法違反の変人と知り合いですか?」
銃刀法違反の変人! ……言うなぁ。
橘さんは少し震えている。
確かに、目の前に巨大狼の化け物、後ろに狼の群れ、刀を持っていて助けてくれた男性に攻撃している金髪ヤンキー……。
「帰り道、か……。」
皆が息をのむ。
場に重い空気が流れた。ほんの数秒のはずなのに。
輝はこちらを睨み、威圧するように言った。
「無事に帰れると思ったか……?」
そう言った彼は迫力満点で、心なしか目が光っているように見えた。
その言葉を聞いた橘さんは、小さく悲鳴を上げた。
輝さんは天照に向き直り、眉をひそめ、真剣な表情で言った。
「それで、若。一つ聞いても? なぜこの子供たちは逃げないのでしょう。そこに何かいるのですか?」
僕は黙った。不思議に思ったのだ。
この人は……見えていないのか?
後ろにいる、狼の群れが。
「……ああ、輝は見えないんだったな。そこにいるのは狼の群れ――うわっ!」
天照は小さく悲鳴を上げた。
先ほどまで存在を忘れられていた男性が、天照に攻撃を仕掛けたのだ。
もちろん、天照はそれを華麗によける。
攻撃を仕掛けた男性の、かすかに光るその瞳は、敵意の色に染まっていた。
ナ「やばいって、147話……情報の洪水の中に『お兄さんですよ~っと』ってノリで出てくる輝さん、逆に強者すぎん?」
確実にキレてると思いますけどねぇ。
白「『銃刀法違反の変人』の称号、あれで天照くんが傷ついてないわけないよね……100%あとで思い出して寝込みそう」
いや、彼なら大丈夫かな。過去にもっとすごい悪口言われてたし……。
作「てか、完全に忘れられてた男が突然斬りかかってくる展開、天照くんも読者もブラウザ更新された感あった……」
『主』かと思ったら『部外者』。『助け』かと思ったら『監視者』。呼び方一つで全員の関係がぐらつく回だったね!
ナ「輝さん、威圧してきた瞬間の目の光、あれ絶対カラコンじゃないよね!? 目からWi-Fiでも出てんの!?」
カラコンじゃないよ。
白「しかもあの人、『狼が見えない』ってサラッと出たけど、それもうバグ確定じゃん」
シツレーな。
作「これで異世界に来てるのに“異常を認識できる人”と“できない人”がいるって……もう授業参観レベルで地獄」
最終的に「帰れると思ったか……?」って煽ってくるの、クイズの不正解ボイスか何かか!? というか、授業参観はそんなにひどいの?
ナ「天照くん、“暇だったから”って理由で異世界開いたこと一生根に持たれそう……」
だ、誰に!?
白「輝さんが“怒ってる理由がジワる”って言われてるの、個人的に応援したくなった」
作「というかあの兄弟、会話のテンポだけ完全にコント。いったん落ち着けって感じだった……」
え、あの二人兄弟だったら『風雅 天照』になっちゃうよ?