146 異世界の主
「――って、ん? うわっ!!」
男性は避けた。上から降ってきた人影を。
「やっと見つけた……。」
上から降ってきた人影は下を向きながらそうつぶやく。独り言のように。
人影はゆらりと立ち上がり、男性に向かって言った。
「この異世界の持ち主、怪異!」
「は、はぁ!?」
人影、天照はどこからか刀を取り出し、男性に刃を向けながら言った。
男性は不機嫌と苛立ちと困惑が混ざった声をあげた。
「何言ってんだよ、俺は普通に――って、ちょいちょいちょい!!」
男性の言葉も待たずに、天照は刀で攻撃する。
その刃を、男性は避ける。
「化け物ならこっちのナンカ……イヌ科のなんか……見るからに化け物の方でしょ!?」
「そいつは弱い! その化け物の名は『奈落吼』という種の中の『滅銀浪』というものだ!」
「へー。よく知ってんじゃん。でも俺は普通のにんげ――だからぁ!!」
天照はまたもや男性の言葉を待たずに攻撃する。
男性はようやく向けられている刃物が刀という事に気づいたのか、目を丸くして叫ぶ。
「ちょ、お前それ刀じゃん! 銃刀法違反! 銃砲刀剣類所持等取締法の第三条確認してみろってお前!」(早口)
男性は攻撃を避けながらも話す。天照は「よく回る舌だ……」とつぶやいた。
男性のどこか濁っている目に映るのは、敵対心と殺意を抱いている者の姿。
「何!? 俺に何のうらみがあるの!? ちょっとそこの子供たち! 俺の無罪を証明してよ!!」
陸たちは男性から助けを求められ、言葉に迷う。
すると、陸の隣にいる淳が、自分のジャージをギュッと掴み、何かを決意したように陸の腕を掴んだ。
「陸! 逃げよう!」
「え!? な、なに?」
「いいから逃げるよ!」
「で、でも……おいて逃げるなんて……!」
「いいから! ……あの刀持ってる通り魔の変人から逃げよう! みんなの事は先生に任せて!」
「う、で、でも……。」
陸は一度振り返るが、確かに通り魔からは逃げた方がいいかもしれないと、天照を見て思った。
「わ……わかった。」
そう言えば佐藤は走り出して、僕はその速さについて行けなさそうになる。
その時――。
佐藤の頭めがけて、林の方から天照が持っている刀と同じような刀が飛んできた。
「――ッ!」
ナ「っていうか待って!? 天照くんいきなり“斬りかかる”のおかしくない!? 確認もゼロ!?」
ああ。つまり『問答無用ッ!!』ってことね……。
白「いやでももう“あの空気”がさ……『お前が主だな』って決めつける速度が人間離れしてて震えたよね……」
作「刀抜いたあとの言葉を聞かない姿勢が逆に怖い。『使命の自動再生』って感じ……あれもう理屈じゃない」
『怪異に対しては躊躇するな』って叩き込まれてるのか、 それともこの空間自体が彼をそう動かしているのか……。まあ、その目で確かめればいい。
ナ「それにしても『奈落吼』『滅銀浪』って名前、厨二心を刺激してくるの反則……」
……クソジジイ!!
ナ「なんで!!?」
白「『格』がある感じだよね、化け物に分類があると世界の成り立ちを想像できて楽しい!」
作「で、あの男の人さ……驚き方も口調もリアルすぎて逆に不安になった……ほんとにただの通行人なの……?」
ここに来て対話が成立しそうな存在が現れたことが、かえって怖いよね? 『正体が見えない存在』より、『善人ぶった敵』のほうが一番たち悪いの知ってるからね……!
ナ「あとあれだよ! 刀を抜くって行為が物語の空気を切り替えるスイッチになってた」
白「現代の異空間に刀って、一気に時空が撚れた気がした。空間じゃなくて『文化圏』がズレた感覚……」
ま、名残りというやつですな。
作「ということはつまり、この空間そのものが日本的なのは偶然じゃないってことかも……?」
ん? そこは偶然。ていうか林間学校だから。