144 異世界の境界
結果から言えば、あの木の傷は消えていた。
彼の言っていたことは本当だったのだ。
彼はどうして、こんなことを知っているのだろう。
「狼の群れ……!」
一方その頃、僕たちは後ろのイヌ科の化け物と、進行方向の霧から現れた狼の群れに睨まれ、数歩後ずさる。
その時、大和さんが林に走り、木の枝を折る。
そして大和さんが狼の群れに向かって殴りかかろうとしたとき、安藤さんが止めた。
「啓介、じゃまするな!」
「やめろ大和! 狼の群れに遭遇したときは、攻撃しちゃいけない! 走らず目を合わせず背中を向けずにゆっくり後ずさるんだ! 走ると狼は捕食本能で追いかけてくる! 目を合わせると敵意があると認識され、背中を向けてしまうと攻撃される可能性がある!」
大和さんはその言葉を聞き、攻撃に行くのをやめ、背中を向けずにゆっくりと後ずさった。
「で、啓介。次はどうすればいい。」
「そ、それは……何だったかな?」
「ちょ、お前な……!」
喧嘩が始まりそうな二人の間に、佐藤が「大きく見せる……」と言った。
「「え?」」
「腕を広げたり、上着を頭上でバタバタさせて威嚇……。大きな音も効果的。手を叩いたり、叫んだりして狼を退ける努力をする。」
「な、なるほど! それなら得意だ! あーーーー!!!!」
『あーーーー!!!!』
「「ん?」」
遠くから聞こえた叫び声に、神谷と天照は同時に声を出す。
「今の声は……知ってるか? 神谷サン。」
「……大和君の叫び声だ!」
「はぁ、はぁ……確か、ここら辺から聞こえたはず……。」
神谷は、息切れしながらも必死に走り、森の中を駆け抜け、着々と陸たちのもとに近づいていた。
「……これは!」
一方の天照は、一切の息切れの様子は見えず、涼しそうな顔をしていた。
天照は珍しく表情を変え、目を丸くしていた。
神谷は天照が見ているものを覗き見る。
そこにあったのは――。
「ここから先が、別の怪異の異世界になっている……!」
「はぁ、はぁ……珍しいことなの?」
天照が頭を抱えて言う。
「ああ。……なら今、神谷サンの生徒さんたちは――相当強い怪異の異世界にいる。俺一人で何とかできるかどうか……!」
「そんな……なぜ?」
「……所持者が絶対の異世界で、他の異世界を作ることはそこらの怪異には出来ない。」
深刻そうに告げる天照の顔は、それだけ珍しいことで、この怪異は強いのだと物語っていた。
ナ「いやあ、今回は『静かに危ない』って感じだった……ギャーッとかドンッじゃなくて、『あっ……』ってなるやつ」
白「わかる、特に“ゆっくり後ずさる”描写がめっちゃ怖かった。“走れない恐怖”ってほんとに本能にくる……」
作「しかもその緊張の中で佐藤くんが『正解』を口にしてくる感じ、恐怖の中に『人の知識』が差し込まれてくるのがリアルだった」
“群れ”と“空間”と“音”に包囲された、三重包囲の回。 緊張は叫び声じゃなく、**選択肢の無さで生まれるんだってことがよく分かる構成だったね……!
ナ「で、そんな状況で“声が届く”んだよ!? 神谷先生たち視点に音が届いて、合流フラグが立つんだよ……!」
いやいや合流してくれないと天照くん出した意味ないから。
白「しかも視点転換、めちゃくちゃ自然だった。『ああ、ついに合流するかも!』って希望がすごかった……」
作「でもその直後の『異世界だった』って宣言、もう一回地獄に引き戻されるの、容赦なさすぎた」
扉の先じゃなく、“今いる場所そのもの”が異世界だったっていう絶望感よ……! しかも天照くんの『そこらの怪異には出来ない』ってセリフ、“まだ上がいる”ことをさりげなく予告してきてる……!
ナ「あと、神谷先生が疲れてる横で天照が涼しい顔してるの、地味に怖かった……」
まあ……彼はしょうがないね。
白「『息切れしてない=別の存在』っていう描写の対比が綺麗だった。小さな一文がめちゃくちゃ効いてたね」
作「これ、次回ほんとに異世界突入する感じだよね……“合流”じゃなく“侵入”って空気がじわじわしてきた……」