142 異世界の扉
――気づいた時には遅かったらしい。
どうやら、『ピザ配チーム』と『男子チーム』が肝試しに行ってしまったようだった。
――『ああ、あの人たちなら、肝試しに行ったみたいですけど……。』
その言葉を、聞いた時、教師、神谷隼人は固まった。
(あのッ馬鹿ども!!)
こればっかりは本気で焦った。
彼らの近くで作業をしているチームの人たちに聞いて、彼らが入っていた林のコースを一周した。
それでも、コースには誰もいなかった。
はぁ!? このコースに入って行ったんじゃなかったのかよ!
息切れして喉が痛かった。でも、生徒がいないほうのが問題だ。
コースの中にもう一度入って、数分歩いた。そしたらそこに、一人の青年が立っていた。
彼は着物の白衣に袴を着ており、神社の人かと思った。
だが彼の髪は金髪。ヤンキーの神社の人!? と驚いた。
青年はこちらの気配に気づき、振り返る。
フワッと揺れる彼の金髪は、人工物かと思うくらい美しく、金髪から覗く青い目は透明感があり、一切の曇りも風もなく、ただ凪いでいる水面のように見えた。
そして青年というより、少年顔のような気もした。
そのすべてが浮世離れしていると言われても仕方がないくらい美しくて、人間かどうかを……それよりも自分の目を疑った。
「だれ……?」
青年は神谷に問う。
だが神谷は己は一応教師なのだと言い聞かせ、言葉を発した。
「私は林間学校に来ている学校の教師です。実は、私のクラスの生徒たち数人が消えてしまって……見ていませんか? それに、もうすぐ暗くなるのでここにはいない方がいいと思いますよ。あなたは高校生ですよね?」
青年は眉一つ動かさぬまま答えた。
「見ていないな……もしや、その消えた生徒の中に、『人外』がいたりするか?」
神谷は黙った。
彼は……何か知っているのではないか、と思ったのだ。
そして、その声が木霊のように響く。無意識にもう一度、人間かを疑いそうになる。それでも足音はし、まるで自分が、過去の世界に入り込んでしまったのではないか、と思った。
だが神谷の答えは、短いものだった。
「はい。」
確かに、人間じゃないものはいる、というように、力強くうなずいた。
「やっぱりそうか……なら、そいつらは異空間にいる。」
「ゼツリョウ?」
「怪異が所持する、異空間だ。その空間は電波を遮り、所持者の意思でしか出ることはできない。」
そして――と青年は続ける。
「俺が今立っているこの場所が、最もその異世界に干渉しやすい場所。今からここを――こじ開ける。」
青年は無表情のまま前にある木に触れる。
いや、触れるというより『撫でる』の方が近いかもしれない。
その木に振れようが、何も変わらない。
どうやって、こじ開けるというのか。
「こじ開けるって……どうやって?」
「問題はそこだ。俺はやったことないし、中途半端な俺に、それができるかどうかも分からない。……だからこそ――やってみたいんだ。」
青年は、目を少し輝かせて言った。
「来るか?」
「え?」
青年のその質問に、一瞬戸惑う。
意味が分からなかった。
「異世界は所持者が神のようなもの。その気になれば、操り人形にだってできる。生死……種族も関係なく。」
その言葉を聞いた瞬間、背中に冷たいものが走った。
「まあでも、この所持者はアホらしいから、そこまで問題はない。」
青年は木からこちらに目線を変え、少し笑って言った。
「かく言う俺も。死のうが死ななかろうがどうでもいい存在。実力もどれほどのものかわからず――それでも、来るか?」
真面目に問われて、息をのむ。
ここで、行かずに戻るなんてできない。
「行きます。」
ナ「うわあ……金髪で白衣で袴って、異界からの案内人感満載なんだけど!?」
ほうほう。
白「しかも“触れる”じゃなくて“撫でる”って表現がゾクッとした……こじ開けるのに力じゃなくて気配でやる感じ……」
そうだね。
作「“やったことないけどやってみたいんだ”って、あの目の輝きがまじで不穏すぎる……」
彼の“中途半端”って、自覚よりも“制御できない力”のことな気がしてならない……。
ナ「あとさ、神谷先生……めちゃくちゃ格好よかった……!!」
よかった。
白「“教師として行く”って言うの、あの一言で今までの先生像ぜんぶ塗り替えられた」
どんな教師像持ってたの?
作「静かな決意って怖いよね。たぶんこの人、これから『生徒を守る側』じゃなく、『世界の構造に踏み込む側』になるんだ……」
そして何より、『異世界』という言葉が、今回すべてを変えた 。これまでの怪異と噂だけじゃなく、“場所”そのものが意思を持つ可能性が見えてきて、 いよいよこの物語、次元が一段、上がりましたね。
ナ「よっこらしょっと?」
ちょっと! 台無しにしないでよ!