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140 消えた二人


 誰……? 二人がそうつぶやいた直後、女性は叫んだ。


「ここはアタシが引き受ける! さっさと逃げろな!」

「え! でも……。」


「いいから! 逃げろ!」


 女性はどうやら、囮になってくれるようだ。

 逃げるのが正解だと思う。ここにいても足手まといになるだけ。


 でも少しだけ……違和感のようなものを感じた。

 声は力強いのに、どこか人間離れした響き……そして、どこか聞いたことのあるような……。


「西村さん! 逃げましょう!」


「う、うん!」


 化け物の前に立つ女性を一瞬見て、みんなの背中を追いかけた。




「はぁ、はぁ、はぁ……。」


 みんなの息が切れ始めたころ、腰が抜けてしまっているので大和さんにおんぶしてもらっている状態の橘さんが、一本の木を指さして言った。


「ねえ、あの木……さっきも見た気がするんだけど……。……この特徴的な溝、前にも見たような……。」


 みんながその木に注目する。

 佐藤がその木に歩み寄り、木に触れる。


「はぁ、はぁ……ほんとだ。この木、さっきもあったよ。」


 安藤さんが崩れ落ちる。

 汗がぽたぽたと地面に落ち、息切れしている呼吸を整えている。


「マジかよ……もう、走れな……。はぁ、はぁ……。」

「オレも……もう限界。」


 みんな地面に座り込む。

 どうしよう。このままじゃ逃げられない。


「だ、大丈夫?」


 この中で唯一走っていない橘さんが問うが、みんなは苦しそうに息切れした呼吸を整えている。

 橘さんは眉を下げたまま周りを見渡す。


「……ん? 馬場さんと永来君は?」


 橘さんの一言で、場の空気が変わる。

 大和さんが立ち上がり、来た道を戻ろうとする。


「や、ヤベェよ。あの二人、体力無いから……今すぐ、助けに、戻らないと……ゴホッゴホッ、はぁ、はぁ……。」


「ダメ……ですよ。現実的ではありません。」

「そうだ……よ。いったんここで、呼吸を整えて……。」


 今ここにいる人物の中で、息切れで動けないのが僕、大和さん、鈴木さんの三人。

 馬場さん、永来君はここにいない。そして、動けるのが走っていない橘さん。ギリギリ動けるのが佐藤と安藤さんだ。


「おい佐藤! 最後に……最後に馬場さんを見たのはいつだ!」


 安藤さんが佐藤の肩を掴み、佐藤を揺らす。

 反応がない佐藤を心配し、安藤さんが「佐藤? 佐藤!」と佐藤を大きく揺らす。


 佐藤の顔は青を通り越して白く、呼吸が浅かった。


「……わからない。」


「わからないって……お前な!」

「ずっと……視界の端にいた。視界に入ったり出たりを繰り返して……いつ消えたかなんて……。」


 おそらく今、佐藤の頭には『守れなかった』という言葉が浮かんでいるのだろう。


「はぁ……佐藤。深呼吸だよ。落ち着いて。」


「う……。……化け物が襲ってきたときが最後。……その後、一回だけ視界に入ってる。その時は……逃げるように木々(きぎ)の間に消えていって、黒いモヤに包まれて森の奥に消えていった……。」


ナ「“同じ木”って気づいた瞬間、背筋ゾワッとした……もうこの森、地図じゃなくて“意志”で動いてるでしょ……」

白「“あの女性”の登場で一瞬安心しかけたのに、逃げれば逃げるほど不安になってくるの、心理戦エグい……」

作「しかも『あれ?』って違和感に気づいたのが橘さんってところが絶妙。動いてない彼だからこそ、冷静でいられたんだね」

 息切れ、疲労、混乱、それぞれの限界がすぐ隣にいて、『判断ミス』を誘ってくる感覚、たまらなく不穏……。

ナ「でもさ、“いない二人”の名前が出た瞬間、空気が変わるの、ほんとに怖かった」

白「『言葉にした瞬間、存在が確定する』っていう怪異的なルールがこの作品、ほんとに生きてる……」

作「佐藤くんの“わからない”がリアルで、逆に刺さった。『視界の端』って表現が記憶のズレを誘うのうますぎ……」

 『姿が見えていた』のに、『意識から抜け落ちていた』――これぞ“空白”の怪異……ですね。

ナ「あと、佐藤くんの動揺がすごく人間らしくて、ずっと無感情キャラだと思ってた分、余計ぐっと来た」

 無感情キャラって思われてたの地味に傷つく。

白「逃げるのが『正解(ピンポーン!)!(^^)!』じゃない状況で、動ける人が限られてる焦燥感、読みながら息止まってたよ……」

作「ていうか“あの女性”……助けたのは事実だけど、『味方』って言っていいのかな……?」

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イイネ等、よろしくお願いします。 え? なぜかって? しょうがないなぁ、そんなに言うなら、教えてあげないこともないですよ。 モチベにつながります。
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