136 見えないもの
「はぁ……なんでせっかくの肝試しが佐藤と一緒なんだよ!」
「しょうがないだろ? この組み合わせは馬場さんが決めたんだから。馬場さんから見て最適なカップリングってやつなんじゃない?」
佐藤淳は後ろを歩く安藤啓介に向かってため息交じりにつぶやく。
淳は「まぁ……」と言葉をつづけた。
「山本さんがついて来たのは、予想外だったけどね。」
後ろを歩く山本さんは、表情はいつもと同じ無表情に見えるが、目が輝いており、ワクワクを隠しきれていない様子。
「二人からは物語でしか聞けないような単語がいっぱい出てきて面白いので。」
「なんだか山本が馬場と同類に見えてきた……。」
「今だけは鬼桜に同意する……。」
山本さんの期待が重くてろくに話せないまま数分歩き続けた。
空気が重く感じる。そう思うのは啓介、淳だけではなく、山本紅夜も同じ考えであった。
――ガサッ
そんな状態で歩き続け、またもや数分経った頃、林の方からガサッという音が聞こえ、啓介、淳が音の方に視線を向ける。
紅夜は一歩後ろに下がる。
緊迫した空気が流れる中、淳はこう考える。
(なんだこの気配! 今まで感じたことがない。誰だ!? いや、そもそも人間か……!?)
音が聞こえるまで気配を察知できなかった。いや、気配を察知し損ねたのか?
だが鬼桜も同じような反応だ。なら本当に気配がないのか?
まるで、旅館で魔法についてはなされた時に会った人物たちと同じように、存在を認識しづらい――。
「いやーバレてしまった。バレてないと思ったのになぁ……。」
そう笑いながら出てきたのは、馬場輪音だった。
……馬場さんの気配だ。気のせいか?
肝試しと聞いて、緊張していたのかもしれない。くッ……筮さんが『怪異』とか言うから……!
三人は目を丸くする。いつからついて来ていたのか、と疑問に思うのは淳だけではない。
この数分間、ずっと音もたてずに隠れながらついて来ていたのだ。それは驚くよな。
「なんだ……馬場だったか……。」
山本さんはつまらなそうに輪音を見る。どうやら幽霊の登場を期待していたようだ。
輪音は「ごめんねー」と笑う。その後、何かボソッとつぶやいたが、その言葉を拾うものはいなかった。
「チッ。吊り橋効果をビデオカメラに収めるチャンスだったのに。」
「聞こえてるぞ~馬場。」
「はぁ~い。」
啓介が輪音に突っ込む。
その時――風が止んだような気がした――。
「うわぁ!!!!」
という悲鳴が聞こえてきた。
輪音は「何!?」と叫び悲鳴の方に走って行った。その後ろ姿を追いかける、啓介と紅夜。
輪音を追いかける二人を見ながら、淳は考えた。
いや……アレは本当に、”輪音”だったのか……?
淳は一度、追いかけるのをためらった。
ナ「“肝試しってワクワクするもんじゃないの?”って思って読んでた自分を全力で反省した……」
何言ってるの? 肝試しは肝を試すためにあるんだよ?
白「山本さんの“物語でしか聞けないような単語がいっぱい出てきて面白い”ってセリフ、じわじわ不穏すぎる」
※彼に悪気はありません
作「そして“気配がない輪音”の登場……これ、もう一つの怪異では!?」
しかも“ビデオカメラ”とか“吊り橋効果”とか言いながらサラッと怪異の裏を取ろうとしてる輪音……怖かわいい)
ナ「啓介と淳のテンポも良かったけど、油断してるとあの“ガサッ”で全部吹っ飛ぶんだよね」
白「“人間か!? いや、人間か!?”って二重で確認してるあたりで、読んでるこっちもドキドキした」
作「あと“存在を認識しづらい”って表現、既視感ある……前にも出てきたよね……?」
そう。読者が気づけたなら、そこからまたひとつ、線がつながり始めるのです。
ナ「そしてあのラストの悲鳴。笑った直後にあれって、バランス壊れるほど怖い……」
白「明らかに“何か”が動き始めてる……」
作「これ、もう肝試しじゃないよね。たぶん試されてるの、こっち側なんだよ……」
そうそう。そうだよ。でも、今回の話、書くの結構むずかったなぁ……。